メンタルヘルスの代名詞でもあるうつ病の患者は近年急速に増加し、平成20年の厚生労働省の調査では100万人を突破したとされています。これは医療機関で治療を受けている人の数ですから、実際にはもっと多くの人が病状に苦しんでいるおそれがあります。身近な人がうつになるのも十分ありうる状況です。
気にしすぎて距離を置きすぎるのは禁物
産業医をしていると、職場でうつの人が職場で出たときに、その人の上司や同僚から「どう接したらいいかわからない」といった相談を受けることがあります。
メンタルヘルスの概念が浸透した現在では、うつが疑われる人に対して「もっとしっかりやれ!」と叱る方はほとんどいません。
逆に、相談されてもどう返事をしたらいいかわからないので、本人と距離を置いてしまう人が少なくないのです。
うつの方は悲観的になっており、周囲が自分のことをどう思っているか敏感になっています。知人から距離を置かれてしまうと、それだけで孤独感が強まり、ますます社会から孤立するおそれもでてきます。
具体的な対応方法は、病状の進み具合や相談内容によって変わります。
生活や仕事、人間関係などの「悩み」を抱えていて抑うつ気味の段階であれば、まずは話を聞いてあげることで気分が楽になることもあります。
相手から「この人に相談したい」と思ってもらえるような声のかけ方を考えましょう。ときには構われたくない場合もあるでしょうから、
「最近調子が悪そうで心配していますよ。大丈夫ですか」
とさりげなく声をかけて反応をみるのがよいと思います。気にかけてもらえると伝わるだけで、苦しんでいる本人の安らぎにつながります。
相談に乗るからには何かアドバイスをしたり、援助したりしなくてはならないと考えてしまいがちですが、答えを急ぎ過ぎると本人が本当に悩んでいることを見落とし、独りよがりな対応になってしまいます。
「自分が素晴らしい助言をしてあげる」ことではなく、「相手のつらい気持ちに共感する」ことを心がけるようにしましょう。
まずは内科の受診から勧める方法も
もしも相手の病状が進んでいて「身体の調子が悪い、眠れない」などの体調不良を訴えている場合には、相談に乗ってあげるだけでは回復は見込めません。率直に「病院に行った方がよさそうですよ」と伝えてあげるのがいいでしょう。
この時に注意すべきなのは、もしうつが想定されても、精神科の受診に抵抗を示す方もまだ少なくないことです。
まずは内科のかかりつけ医など、抵抗の少ないところから受診を勧め、大きな病気がないかを診てもらうのがよいかもしれません。
内科的な疾患がないのに症状が続いているということであれば、精神科や心療内科を勧めることにもつながるでしょう。
職場の産業医への相談を勧めるのも一つの手です。産業医のいない事業場の場合は、地域の産業保健推進センターなどの機関でも相談を受け付けてくれます。
このように、うつの人に対しては、周囲の人たちでも手を差し伸べる余地があるものです。相手が病気かどうかにとらわれすぎず、自然な対応をしてあげるようにしましょう。