空前のマラソンブームが支える「心の安定」

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   毎朝走って職場に通う「通勤ラン」という言葉が生まれたり、仕事帰りのランナーで皇居の外周に渋滞が起きたり――。いま、空前の「マラソンブーム」が訪れています。人気の大会は高倍率の抽選となり、出場できない「マラソン難民」も発生しました。

   一般に「苦しいだけ」と思われがちなマラソンを続ける人が、なぜこれほどまでに増えたのでしょうか。実はそこに、ストレス対処のヒミツが隠れているのです。

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これならできるという「自己効力感」を高める

自分で決めて、自由にやりたいようにやる
自分で決めて、自由にやりたいようにやる

   昨今のブームの理由を考えると、次のような要素がありそうです。

・健康志向が高まっている
・準備する物や場所の制約が少なく、経済的な敷居が低い
・目標設定や時間、コースなどの自由がきく
・ブームに乗じて仲間づくりしやすい

   これらをストレス対処の観点から検証してみましょう。健康志向の高まりは、走ることに対する大きな「動機」となりえます。やらされ感ではなく、「健康になりたい」「病気を予防したい」という積極的、自発的な姿勢を生み出します。

   経済的な敷居の低さによって、思いついたらすぐ実行に移してみることができますが、実際にやってみると、有酸素運動特有のストレス解消効果をすぐに感じることができます。そして「意外と楽しいな」「気持ちいいな」と感じながら、自然と継続できるのです。

   また、走り続けるうちに、大会での完走、記録更新、減らしたい体重など、自分なりに目標を立ててみようという気持ちが起こってきます。裁量権は自分にあり、自由にやりたいようにやれるわけです。

   そして、目標をやり遂げたときには大きな達成感が生まれ、「また頑張ろう」というやりがいが生まれます。これらの経験を通じて、新しい目標に対しても、

「これならやれるかも」「自分にもできそう」

という感覚が生じるようになります。これを「自己効力感」と呼び、物事に対して積極的に取り組むことができる力になるのです。

   さらに、昨今のブームによってマラソン仲間が作りやすい状況もあり、職場以外での楽しみを通じた人間関係から得られる心理的サポート感が果たす役割も大きいのではないでしょうか。

コースは往復より巡回がよい

   このように見ていくと、閉塞感漂う現代社会では得られない貴重な感覚を、マラソンは与えてくれることが分かります。

   「内発的動機」に「自己効力感」、「やりがい」や「達成感」、「良好な人間関係」などに囲まれるマラソンの環境は、与えられた目標と制約の中でよい結果を出すことも難しく、ギスギスした雰囲気になっている職場とは対極的です。

   マラソンブームがこれほどにまで高まっていることに、納得がいくのではないでしょうか。マラソンこそ、ストレス社会を救う救世主なのかもしれません。

   それでもまだ、走ることに抵抗があったり、三日坊主で終わると懸念したりする人は、次のような練習上の工夫を取り入れてみてはいかがでしょうか。

1.しゃべりながら走れるスピードで練習すること
・有酸素運動の効果も高まりますし、体に負荷がかかりすぎるのもよくありません。
2.目的地を決めて走ってみること
・「レンタルDVDを走って返しに行く」とか、走ること以外の目的を作ってみましょう。
3.目的地との往復ではなく、巡回するコースを選ぶこと
・飽き防止に加え、つらくなった時にショートカットして戻ってこられます。
4.走るコースをいくつか用意し、天候や気分で走り分けること
・眺めのいいコースを取り入れると、飽きずに続けられます。

   たまには通ったことのない道を選んでみると、何か発見があるかもしれません。


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今回の筆者:羽岡 健史(はおか・たけし) 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 産業精神医学・宇宙医学グループ所属。日本医師会認定産業医。メンタルヘルス不全者の職場復帰プログラムの開発とスポーツ精神医学が研究テーマ。浦和神経サナトリウムで精神科医として勤務するかたわら、茨城県庁とニチアスで産業医を務める。

身近に「ランナー」はいますか?
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走る人をよく見かける
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筑波大学大学院・松崎一葉研究室
高度知的産業に従事する労働者のメンタルヘルスに関する研究を行い、その成果を広く社会還元することを目指している。正式名称は筑波大学大学院人間総合科学研究科 産業精神医学・宇宙医学グループ。グループ長は松崎一葉教授(写真)。患者さんを治療する臨床医学的な視点だけではなく、未然に予防する方策を社会に提案し続けている。特種な過酷条件下で働く宇宙飛行士の精神心理面での支援も行っている。松崎教授の近著に『会社で心を病むということ』(東洋経済新報社)、『もし部下がうつになったら』(ディスカバー携書)。
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