長引く経済不況の中、うつ病を中心とした気分障害の患者数は、ついに100万人を突破したと報じられました。「景気が悪くなると、うつが増える」と聞けば、納得感を覚える人が多いと思いますが、実際この2つの要素はどのように関係しているのでしょうか。
「努力」と「報酬」のバランスが大事
景気が悪くなると、リストラによって会社を退職に追い込まれた人が経済的な問題を抱えることになります。会社に残った人でさえ、心身の疲弊からうつになることも少なくありません。
しかし、リストラのような大きな変化が起きなかった会社でも、うつは増え続けています。単純なストレスイベントの有無だけで、うつの増加を説明することにはムリがあります
「不景気」で「うつ」が増えるメカニズムは、精神心理の世界では有名なジーグリストの「努力-報酬不均衡モデル」を用いると、うまく説明ができますし、その対応策までもが見えてくるのです。
このモデルでは、ストレスが生じるのは、
「仕事の要求度」に対して得られる「報酬」のバランスが悪くなったときである
と考えます。要求度とは、仕事の難易度の高さや、責任や負担の重さ、義務の大きさなどを指します。
つまり、たとえ負担の重い仕事であったとしても、自分が努力した分だけ報酬を得られれば、人はあまりストレスを感じない。一方で、努力したにもかかわらず報酬がそれに伴わないものである場合には、大きなストレスを感じるという、何とも分かりやすく納得感のあるモデルです。
景気の良い時代には、勤勉な日本人の多くは努力を惜しまず、がむしゃらに働き、どんどん出世をし、それに伴い給料やボーナスもぐんぐんと伸びていきました。自分の努力とそれに伴う金銭やキャリアの報酬が、見事に釣り合っていたのです。
それに対して、低成長が続く現代社会はどうでしょうか。多くの人が努力をしているにもかかわらず、なかなか出世もできず、給料が上がらないばかりか減っていくことが当たり前に起こるのです。多くの労働者が大きなストレスを感じて当然でしょう。
金銭やキャリア以外の報酬を探そう
とはいえ、不景気が長く続き、金銭やキャリアの報酬を望めない環境下でも、いきいきと楽しそうに仕事をしている人も皆無ではありません。
実は、「努力-報酬不均衡モデル」でいう報酬とは、金銭的報酬やキャリアの報酬だけではないのです。上司や同僚からの評価や、お客さんからの感謝、仕事のやりがいといった「心理的な報酬」なども含まれます。
この心理的報酬が、不景気な時代でもストレスをため込まずに過ごすための、大きなポイントとなるのです。
高城幸司氏がJ-CAST会社ウォッチのコラムで指摘しているように、日々の仕事で起こる「小さな喜び」をおろそかにしないことや、お互いの信頼感を伝え合うコミュニケーションは、方法として非常に有効だと思います。
今後、新しい成長をいかにして生み出すかということは社会的な課題ですが、一方で高度成長が終わって久しいことを前提として、自分の努力に対する報酬をいかに自分で見つけ出すかということがストレスマネジメントの重要な要素となると思われます。
今一度、仕事に対するやりがい、達成感、他者から感謝されることへのありがたみなどを見直してみることが必要なのではないでしょうか。