仕事減らさず負荷減らせ 「コントロール感」がカギ

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   「大変な仕事」とは、どんなものでしょうか。量が多い、期限が迫っている、質に対する評価基準が厳しいなどのほかに、仕事に対する制約の多さ、裁量の少なさ、決定権のなさに対してストレスを感じる、という経験を持つ人も多いのではないでしょうか。今回は、仕事を減らせないときにストレスを減らす方法について考えます。

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ストレス低減のカギは「裁量度」にあり

仕事の負荷モデル(カラセックの論文より引用、一部改編)
仕事の負荷モデル(カラセックの論文より引用、一部改編)

   仕事の大変さを、客観的に位置づけようとした人がいます。カラセックというスウェーデンの心理学者は、「仕事の負荷(Job Strain)モデル」なるものを提唱し、仕事の負荷を指標化しようと試みました。

   このモデルは、仕事の量や質などの「要求度」(デマンド)と、仕事上での自身の裁量や決定権の範囲といった「裁量度」(コントロール)の2軸からなります。

   モデル図の左上「裁量度が高く要求度が低い」場合は、難しすぎない仕事を自分の好きなように行うことができるわけですから、負荷が低いといえます。

   一方、右下の「要求度が高く裁量度が低い」エリアの仕事は、当然負荷が高くなります。

   左下のエリア、仕事の「要求度が低く裁量度も低い」場合はどうでしょうか。裁量度の低さは「やらされ感」を生み、結果として要求度は高くないにもかかわらず、感じるストレスは決して低くない、という事態が生まれます。

   逆に右上、「要求度」が高い仕事でも「裁量度」が高ければ、ストレスを感じにくく、積極的に仕事に取り組むことができます。仕事の要求度と感じるストレスは、必ずしも一致しない――。ここに「仕事減らさずストレス減らす」カギがあるのです。

「コントロールできること」を見極める

   とはいえ、ビジネスの場では、様々な制約や不条理な事態など、コントロールが難しい事柄ばかり。そのような場合でもできる工夫について、次のような例で考えてみましょう。

   あなたは週末に家族で外出する計画を立てていますが、テレビでは「降水確率80%」の天気予報が。このとき、どのような準備をするでしょうか。

(1)傘などの雨具を用意する
(2)外出のルートや目的地を見直す
(3)風を吹かせて雨雲を吹き飛ばそうとする

   (3)ができるのは、諸葛孔明くらいですね。実際には(1)や(2)を選ぶことになるでしょう。重要なことは、コントロールが「できること」と「できないこと」を見極めることなのです。

   天気は自分ではコントロールできませんが、そのほかの起こりうる様々な状況を想定し、事前に備えておくことは可能です。

   「雨」という制約条件が同じでも、その想定と事前準備の有無によって、感じる「裁量度=コントロール感」は異なります。準備があれば、

「残念だけど、雨具を用意しておいてよかったね」

と、結果として家族のストレスもだいぶ軽減するのではないでしょうか。

思い通りにいかないことがあると心得る

   ビジネスにおいて、自身で「コントロール感」を高める工夫を挙げるなら、たとえば次のような方法が考えられます。

・スケジュール設定に余裕をもち、不測の事態に対応できるようにする
・通勤や訪問のルートを複数考えておき、トラブル時にも立ち往生しないようにする
・体の疲労感や精神的な安定度に合わせて、仕事のペース配分を適度に調節する

   不測の事態やトラブルは何にでも付き物ですが、それを想定し可能な範囲の準備をしておくことで「コントロール感」が実感できると、仕事上でも私生活上でも、感じるストレスが少なくなります。「備えあれば、憂いなし」ということです。

   逆に最もやってはいけないのは「コントロールできないことをコントロールしようとする」ことです。これは大変大きなストレスを生みますから、よく見極めましょう。

   特に、自分以外の人間というのは、とかく思い通りにならないものです。

   くれぐれも、あなたのボスやワイフを思うがままにコントロールしよう、などとは思わない方が身のためです。

   同様に人からの評価も、常にコントロールできるものではありません。他人の評価ばかりを気にしすぎず、自分の努力を自分できっちりと評価できるようになることが、ストレスに強くなる秘訣のひとつといえます。


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今回の筆者:大井 雄一(おおい・ゆういち) 筑波大学大学院 人間総合科学研究科産業精神医学・宇宙医学グループ所属。日本医師会認定産業医。労働者のメンタルヘルスと生活習慣を主な研究テーマとする。日本原子力研究開発機構(JAEA)などの産業医として労働者の健康管理に携わっている。

筑波大学大学院・松崎一葉研究室
高度知的産業に従事する労働者のメンタルヘルスに関する研究を行い、その成果を広く社会還元することを目指している。正式名称は筑波大学大学院人間総合科学研究科 産業精神医学・宇宙医学グループ。グループ長は松崎一葉教授(写真)。患者さんを治療する臨床医学的な視点だけではなく、未然に予防する方策を社会に提案し続けている。特種な過酷条件下で働く宇宙飛行士の精神心理面での支援も行っている。松崎教授の近著に『会社で心を病むということ』(東洋経済新報社)、『もし部下がうつになったら』(ディスカバー携書)。
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