前々回、前回に引き続き、宇宙飛行士に対する具体的な支援内容と、チリの落盤事故への応用について紹介します。国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在する宇宙飛行士に対しては、さまざまな支援が行われます。
地上とのプライベートな交信も確保されますし、日々のニュースも知ることができます。お酒やタバコ以外の嗜好品の提供も受けられ、支援への要望は飛行1年前からアンケートをして収集されます。
ネットサーフィンもできる宇宙
宇宙における閉鎖空間でのストレスを確認し、かつ軽減するために、地上との「プライベートな交信」は重要です。交信はテレビ電話で行い、話す相手によって3種類に分けられ、いずれも1回15分以上が割り当てられます。
・家族や友人と行うもの:1週間に1回
・メンタルカウンセラーと行うもの:2週間に1回
・その他希望者と行うもの:1か月に1回
搭乗員には個人用のパソコンが与えられ、日本語も可能な電子メール環境が整備されているので、任務の合間に自由に使うことができます。回線速度は遅いですがネットサーフィンもできますし、自分の好きな音楽やゲーム、ビデオなどをインストールすることもできます。
パソコンやネットの利用は、ISSにおけるストレス解消策として、いまや大きな位置を占めるようになっているようです。
加えて、社会からの隔離感を少なくするために、各搭乗員には週に2回、テレビ番組が届けられます。ニュースのほか、希望に応じてスポーツ中継やドラマなどを選択することもできます。
情報だけでなく、嗜好品などの物品を実際に送ることもできます。スペースシャトルやロシアの輸送船プログレス等がISSに到着する際に、搭乗員の家族からメッセージカードやクリスマスなどにはプレゼントが届けられます。古めかしい言葉ですが「慰問袋」という言葉がぴったりです。
このほか日本独自の支援策として、共通の宇宙食以外の「宇宙日本食」を提供し、食べ慣れた食材によるストレスの解消を試みています。
チリ作業員たちを支えた「他者との絆」
ストレスを軽減するための支援策として、意外と重要なのが「作業と休息のバランス」を確認し、上手にコントロールすることです。ISSの外には出られないので、休息の時間を確保し、メリハリのある生活を送る必要があります。
さて、このような知見がチリ鉱山において、どのように応用されたのでしょうか。
事故後3週間ほどで地下の作業員との間にトンネルが開通し、ポリ塩化ビニール製の筒が行き来できるようになった時点で、ISSと同じような支援策が提供されました。
まず、家族との交信が定期的に行われるようになり、地上で事故がどのように扱われているかの情報が提供されました。食料やメッセージカード、嗜好品などのモノも次々に送り込まれました。
生存が確認されてから救出には1カ月半以上の期間を要しましたが、作業員たちの精神心理的な健康状態は、この支援によって少なくとも破綻を来たさない程度に維持できたようです。
最終的には、豊かな経験とリーダーシップを備えたリーダーが存在したという奇跡的な条件も重なって、全員の救出に至りましたが、外部とのコミュニケーションが構築され維持できたことが、作業員たちが無事であった要因のひとつと言えます。
洋の東西を問わず、究極のストレス状況に耐えるためには、「他者との絆」が必要といえるでしょう。地上で働くビジネスパーソンの方々の参考になれば幸いです。