最近、「もの忘れがひどい」「簡単なことが思い出せない」といった症状を訴える人が増えています。それも30代、40代の働く人が突然陥っているのです。今回は、働き盛りの「もの忘れ」などについて取り上げてみます。
30代、40代で増える「もの忘れ外来」の受診
これまで病院の「もの忘れ外来」を受診していたのは、60代以降の老年性認知症の方がほとんどで、若くても50代の若年性認知症の方が少しいる程度でした。
しかし、最近は30代、40代で受診し、日常生活の中に「空白の時間」ができていると訴える人が出ています。
具体的な症状は「不意に言葉が詰まる」「たびたび思考が止まってしまう」「人や物の名前が思い出せなくなった」など。高齢になれば自然なことでも、若いうちからこのような症状が出るのは、やはり異常なことです。
このような症状について、脳神経外科専門医の築山節先生は、自らの豊富な臨床経験を元に『フリーズする脳―思考が止まる、言葉に詰まる』という本をまとめられています。
それによると、ボケというのは、必ずしも年齢だけの問題ではなく、若くして「自分の脳を使っていない」または「使い方が偏っている」ことも原因になるそうです。
自分の脳を使っていない状態とは、本人も気付かないうちに「何か」をしなくなっていることが考えられます。たとえば、仕事においてマニュアル的な対応を繰り返していたり、単語でしか話さなくなっているような人は、自分の考えをまとめて他人に分かりやすく伝えることができなくなってしまいます。
また、ITの発達によって私たちの生活は飛躍的に便利になりましたが、それと引き換えにしなくなった「何か」が増えています。インターネット、携帯電話、カーナビなどの道具が、私たちから「探す」「迷う」などの機会を奪っているのかもしれません。
「思い出す力」の低下は脳の退化の一種か
このことは見方によっては、テクノロジーの進化とともに、人間の機能の退化が始まっているということもできます。狩猟時代と比較して、体骨格はスマートになり頭蓋骨が大きくなりました。
その一方で、人類の歴史において、脳だけは進化してきたのです。しかし、現代になり、生活の便利さの向上に伴って、脳も退化していることを危惧する声も出ています。
それが、ネット依存による「思い出す力の低下」や、「不意に言葉がでなくなる」「話が聞き取れない」「考える力が衰える」「集中力が続かない」「感情に支配されてしまう」などの症状として現れているのではないでしょうか。
使わない筋肉が衰えていくように、脳も使わない部分が退化していくのだとすると、普段使わない脳を意識的に使うことの重要性が理解されます。
そのためには、テクノロジーによる便利さと意識的に適切な距離を取り、脳を回復させる行為をすることも必要でしょう。この「回復法」については、次回詳しく説明します。