満面の笑みで伝えられた「どうもありがとう!」
Aさんが、肩の力を落とし、あきらめかけた時...目の前に一人の初老の男性が立っていることに気づきました。
Aさんが、顔を上げると男性と目が合いました。
すると、男性はニッコリ笑って、Aさんに声をかけたのです。
「そのティッシュ、一つもらえませんか?」(男性)
「あっ、はい...。どうぞ...」(Aさん)
Aさんが思わずティッシュを1つ差し出すと、それを受け取った男性は、さらに満面の笑みを浮かべて言いました。
「どうもありがとう! とても助かるよ」
そう丁寧にお礼を言うと、足早に歩き去って行きました。
Aさんは、少し驚いたまま、しばらく男性の後ろ姿を見送っていましたが、急に涙が込み上げてきたのです。自分でもその理由がよく分かりませんでした。
自分は、なぜ涙が込み上げるほど、感情が揺さぶられたのか。またうつむき加減になりながら、気持ちの整理をしていると、またさっきの初老の男性が戻ってきて、目の前に。
「悪いんだけど、もう1つティッシュもらえるかな。今日は花粉が沢山とんでて、くしゃみがとまらなくてね。なのに、家から持ってくるの忘れちゃって(笑)」
「は、はい。どうぞ、お持ちください」とAさん。Aさんが再度ティッシュを手渡すと、男性は茶目っ気のある笑顔で、こう応えてくれました。
「本当にありがとう。助かったよ。このあとも頑張ってね!」
さっそうと去っていく男性の背中を見ながら、Aさんはこれまで味わったことのない感動に、もはや嗚咽を堪えられず、涙を流し続けたのです。
ひとしきり涙を流したあと、気持ちが整理でき、Aさんは自分の内面に起こったことに気づきました。
それは、自分が人の役に立ち、心からの「ありがとう」の言葉をかけられたことが衝撃的で、感極まったのです。大げさかもしれないけれど、働く喜びを感じられたのです。
思えば約1年前に新卒で働き始めた職場では、「ありがとう」という言葉は一度も聞いたことがなかったので、初めて働きがいを経験できたのでした。