上司の言葉がけひとつで、モチベーションが高まった経験はありませんか?
実際のエピソードや感動的なエピソードを取り上げ、人材育成支援企業FeelWorks代表の前川孝雄さんが「上司力」を発揮するヒントを解説していきます。
今回は、失意の底から立ち直ろうとした若者が、ある「出来事」から働きがいを見出したエピソードです。
とても声をかけにくい、忙しそうな上司
大手企業に就職した大学新卒社員のAさん。配属された部署には、同期入社の仲間や同世代の先輩もおらず、20歳ほど年の離れたプレイングマネジャーの上司が、いつも忙しそうに走り回っていました。
ある時、Aさんは上司から書類作成を指示されますが、具体的な説明もあまりされず、何とか自力で仕上げるしかありませんでした。そこで、出来上がった書類を持参すると...。
「これ、文章がおかしいし、数字が違ってるじゃないか! きちんと見直して再提出して!」
Aさんはどう直せばよいものか、少し助言をもらいたいと思いました。しかし、上司はすぐに席を外してしまい、その後もデスクに戻るとことさら忙しそうにパソコンに向かっていて、取り付く島もありません。
Aさんは仕方なく自分なりに考えて修正し、もう一度提出。ところが、上司からは心無い言葉が返ってきました。
「いやいや、このままじゃ使えないな...。自分でやり直すから、もういいよ」(上司)
Aさんは、すっかり意欲をなくしましたが、自分を元気づけるように内心でつぶやきました。
「(何これ? だったら、もっと、ちゃんとやり方を説明してくれればいいじゃないか! これなら、最初から自分でやればいいんだ。完全に上司ガチャのハズレだ!こちらのほうが、気持ちをしっかり持たなきゃ...)」(Aさん)
...そう自分に言い聞かせたものの、上司に仕事を認めてもらえないことは、つらくも感じたのでした。
仕事の優先順位がわかってないな!
また、こんな一幕もありました。
若手社員研修の一環で、職場環境や担当業務について気づいた改善提案をまとめ、上司に提出する宿題が出ました。Aさんは提出期限よりも1週間ほど早めに仕上げ、人事からの指示どおり、上司のもとにメールで送信しました。
ところが、数日が経っても、上司からは何のリアクションもありません。上司のコメントをもらって人事に提出することになっているので、気が気ではありません。
そこで、Aさんは恐る恐る上司のもとへ行き、尋ねました。
「あの...先日メールでお送りした『改善提案』、ご覧頂けましたでしょうか?」(Aさん)
すると、思わぬ返事が返ってきたのです。
「何? 黙ってメールだけ送られてきても何ことだか、わからないよ。ちゃんと直接話してくれないとさ。社内の研修のことなんだよね。それより、昨日頼んだ見積書、どうなっている? お客様も待たれていて、急ぎだから早く出してくれないと困るな! 仕事の優先順位がわかってないんじゃないか!」(上司)
Aさんは、思わぬ叱責に、さらに暗い気持ちになりました。
次第に体調不良が進み、退職に...
こうした状況が続くうちに、Aさんは次第に体調を崩しがちになりました。
Aさんの休みが重なるようになると、さすがに人事部も気に掛けるようになりました。
上司に対し「あまり無理をさせないように」との注意指示が出ると、上司も表面だって厳しい言葉は控えるようになりました。
「申し訳ありませんが...今日も微熱があって、体に力が入りません。お休みさせて頂けますでしょうか」(Aさん)
「それなら、無理する必要はないよ。つらい時や、できない仕事は、早めに言ってくれれば引き取るから大丈夫だよ」(上司)
Aさんは、上司のこうした当たらず触らずの言葉や態度に、かえって冷ややかなものを感じ、疎外感を深めていきました。
そして、次第にメンタル不調が進行し、入社から半年たらずで退職せざるを得なくなったのです。
このエピソードは<心からの「ありがとう」に涙 メンタル不調で退職した若者が「働きがい」を発見した出来事とは>の記事に続きます。
(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)
【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。
近著に、『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)、『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!』(FeelWorks、2024年4月)など。