トヨタグループ不正ラッシュで自動車業界再編へ 「ダイハツ・スズキ」VS「日産・三菱」VS「ホンダ」か?

   ビッグモーター、ダイハツ、そして豊田自動織機...不正事件のラッシュで自動車販売業界がピンチにさらされている。特に、子会社の不正が相次ぐトヨタグループの責任は重大だ。

   帝国データバンクが2024年1月30日に発表した「自動車販売業界の最新景況レポート」によると、やっと回復基調が訪れたのに、景況感がガクンと落ちている。

   トヨタグループは、そして日本の自動車業界はどうなるのか。調査担当者に聞いた。

  • トヨタ自動車本社(愛知県豊田市)
    トヨタ自動車本社(愛知県豊田市)
  • (図表)自動車販売DI(景況感)の推移(帝国データバンク調べ)
    (図表)自動車販売DI(景況感)の推移(帝国データバンク調べ)
  • トヨタ自動車本社(愛知県豊田市)
  • (図表)自動車販売DI(景況感)の推移(帝国データバンク調べ)

回復基調に冷や水、BM・ダイハツ・豊田自動織機

   帝国データバンクの景気DI(景況感)調査は、全国の企業の景気判断を総合した指標だ。具体的には企業の経営者や購買担当者などにアンケートを送り、企業の景気が「上向きか」「下向きか」という景気の方向性を指数で判定してもらう。「50」を境に、それより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、「50」が判断の分かれ目になる。

   【図表】は、全国の「自動車(新車)小売」と「中古自動車小売」から2023年12月末までにアンケートで調べた自動車販売DIの結果だ。

   これを見ると、全体的に半導体不足や消費税増税の買い控えなどの影響を受け、50より下回っているが、2020年のコロナ禍でDI(景況感)が急激に下がったものの、2023年前半までは順調に回復しつつあることがわかる。

   ところが、同年7月、ビッグモーターの数々の不正が発覚、中古車業界のイメージが大きく低下した。また、年末にはトヨタ自動車の子会社ダイハツ工業の長年にわたる品質不正問題により、全車種の生産・出荷を1か月停止する事態となり、12月の自動車販売DIは39.1にまで押し下げた。

   さらに、2024年1月29日にはトヨタグループの豊田自動織機の自動車用ディーゼルエンジン不正問題まで発覚、翌1月30日に豊田章男・トヨタ自動車会長が会見で謝罪する事態に発展した。トヨタグループの構造改革は待ったなしの状況となった。

トヨタが「世界一」より狙う「次世代に受ける車」

   J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なった帝国データバンク情報統括部の藤本直弘さんに話を聞いた。

――新たに豊田自動織機の不正まで発覚したわけですから、自動車販売業界のDI(景況感)は、今後もどんどん下がるでしょうか。

藤本直弘さん 普通に考えるとそうなりますが、そう単純にはいきません。現在、ダイハツ工業の出荷が1か月ストップしており、日本の新車市場から約7万台が滞っています。毎年4月は転勤、入社、子どもの進学と、生活環境が変わりやすく車を買い替える時期にあたります。

1~3月は新車購入の予約が真っ盛りになりますが、そこに向けての新車が不足しているため、中古車の価格が上がり、「中古車バブル」に近い状況になっています。つまり、自動車販売業界全体の景況感としては、上向く可能性もあるわけです。

しかし、中古車価格が高騰すれば、「もう、車は買わない」という人が出てくるし、新車が止まれば中古市場にも車が入らず、バブルは一挙に崩壊します。今年はイレギュラーで、先行きが全く見通せない状態です。

――なるほど。ところで、トヨタの豊田章男会長が謝罪しました。一方でトヨタは世界販売台数が世界1位にもなりました。グループ企業の不正はトヨタにどんな影響を与えるでしょうか。

藤本さん トヨタは、グループ企業のコンプライアンス対策に本腰を入れて、グループ全体の手直しを始めるでしょう。しかし、子会社の不正事件がトヨタ本体の経営に与える痛手は、ほとんどないと思われます。

しかし、トヨタは今、手探りの状態にあります。2023年4月に佐藤恒治社長が就任してから、「トヨタは、販売数世界一を目指さない」と宣言しています。今回世界一になったのは、「結果的にたまたま」でしょう。

世界一を狙わないのがトレンドで、それは今回2位だった独フォルクスワーゲンも同じ。各自動車メーカーとも販売台数より、「次世代に受け入れられる自動車は何か」を必死に模索しています。水素エンジンを開発しているトヨタはEV(電気自動車)で後れをとっていますが、そのEVも電気代コストが高騰するなど、世界的に伸び悩んでいます。

EVで先行していたフォルクスワーゲンや、BMWなども水素に目を向け始めるなど、「脱炭素化の環境にいい車は、何が一番いいのか」と、各社とも試行錯誤を繰り返しています。だから「世界一、バンバンザイ!」とは決して言えません。

スズキは、トヨタとダイハツに「恩」を返す?

――トヨタグループの不祥事連発で、日本の自動車業界はどうなるでしょうか。

藤本さん 軽自動車シェアトップだったダイハツの不正事件で、軽自動車業界の再編が進むと思います。スズキはダイハツの親会社のトヨタに恩があり、トヨタの仲立ちでダイハツ・スズキが連合を組む可能性があります。

1975年の排ガス規制で、スズキの2サイクルエンジンがクリアできなかった時、スズキはトヨタに頭を下げ、競合相手のダイハツからエンジンの供給を受けました。また、トヨタはスズキに出資しており、昨年(2023年)6月、社員の石井直己氏をスズキの代表権のある副社長に送り込んでいます。今度は、スズキがトヨタとダイハツに「恩」を返す番になるでしょう。

――ダイハツ・スズキ連合とライバルになるのはどこですか。

藤本さん まず、日産・三菱連合があります。日産自動車と三菱自動車は、2011年に軽自動車を共同開発する合弁会社「NKKV」をつくり、それぞれ「デイズ」と「eKワゴン」シリーズを出しています。

こうした勢力に対抗するのが、国内で最も売れている軽自動車「N-BOXシリーズ」を抱えるホンダですが、実は、ホンダの軽自動車分野は収益率が高くなく、苦戦していると言われます。

――個人的な話になりますが、「N-BOX」は私の愛車です。

藤本さん それはお買い得でしたね(笑)。軽自動車なのに高級車並みの装備がいっぱい付いています。だからコスト高になり、売れているのに収益性に乏しくなっているのです。

一方、ホンダは2026年のF1レース復帰を発表しています。独自路線を貫く会社なので、「ダイハツ・スズキ連合」と「日産・三菱連合」と1社で戦うのか。あるいは、「日産・三菱連合」に入り、普通自動車の次世代車の開発に注力するのか。目が離せない展開になりそうです。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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