校舎の玄関脇、来客受付がある事務室は、がらんどうだった。電気は消え、地面の土がむき出しになったさまが痛々しい。
秋田市の聖霊女子短期大学付属高校は、2023年7月の豪雨で校舎1階や地下が水没。複数の部屋と電気・ボイラー設備が使えなくなった。必死の復旧活動で、8月21日には新学期を迎え、授業を再開できた。とはいえ、元通りの学校生活を取り戻すには課題が多い。
体育館が、放送室が、図書館が
「泥出しに1週間ぐらい、かかりました。下駄箱も濡れたので、全部外に出して拭いて、消毒したんですよ」
半田隆志教頭が指さした先には、登校中の生徒の靴が収まった大きな木製の下駄箱がいくつも並ぶ。全てを運び出すのは、さぞ骨が折れただろう。
7月15日、学校一帯は広く冠水した。同日夕方ごろ、校舎にも水が流入。校内には工藤保代校長が残っており、以後は関係者や消防と連絡を取りながら、自身は校内で一夜を過ごすことになった。水は校舎の地下にも容赦なく流れ込み、電気・ボイラー設備が浸水、故障してしまう。
水が引いたのは、翌16日の昼頃になってからだ。早々に泥かきを始めたが、復旧までの道のりは遠い。17日は祝日で、18・19日に予定されていた学校行事を急遽中止し、生徒の夏休み入りを早めた。ある程度片づけが進んだ22日と24日、生徒が登校して荷物を持ち帰ったという。
記者が取材に訪れた9月半ば、秋田市は最高気温35度に迫る暑さだった。汗をにじませながら、半田教頭が浸水被害を受けた1階を案内してくれた。生徒が使う食堂スペースや放送室は、床のタイルが一部はがれ凸凹している。体育館は床板が完全に撤去され、真っ暗だ。
図書館では、幼い子たちが元気にはしゃぎまわっていた。隣接する付属幼稚園・保育園の建物が被災したため、「間借り」しているのだ。書棚を見ると、下から2段目までが全て空いている。そこに置かれていた本が全て濡れてしまい、相当数を廃棄せざるを得ないと半田教頭が説明した。この部屋では、高いところで水位40センチに達したという。
「生徒も教職員も、前を向いています」
復旧活動には、教職員に加えてPTAや保護者、卒業生と関係者が協力を惜しまなかった。半田教頭によると在校生は、普段通りの学校生活が「当たり前じゃない」ことを実感し、支えてくれる人たちへの感謝の念を強めたという。
8月10日過ぎに仮設の電源を確保。エアコンを含む電気や水道の使用にめどがつき、夏休み明けの21日、新学期をスタートできた。座学の授業は進んでいるが、家庭科と体育は難しい。特に体育は、人工芝グラウンドの浸水が影響している。泥が入って乾いたままの人工芝を元通りにするには、特別な機械が必要だが、業者に問い合わせると10月ごろまで待たねばならないようだ。
電気設備もまだ仮復旧状態。そしてボイラー設備が完全に故障した点は心配だ。秋田の冬は、寒い。地下室にある機械を見学したが、かなり大型だ。修理代がどれほどかかるのか、そもそも直せるのか、不安は尽きない。1階では事務室や体育館をはじめ、本格復旧はこれからという様子だった。
取材を終えて帰り際、工藤校長と立ち話で言葉を交わした。難題は多いが、
「生徒も教職員も、前を向いています」
こう口にすると、隣で聞いていた半田教頭もうなずいた。ちょうど授業が終わったタイミングだったのか、廊下を行きかう生徒たちの楽しそうなおしゃべりが、耳に入った。多くの人にとっての大切な学び舎の復活を、願わずにはいられない。
(J-CASTニュース 荻 仁)