台湾副総統、表向きは私的訪日でも 無言の「弔問外交」が持つ意味

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   安倍晋三元首相が銃撃されて死去したことを受け、台湾当局は2022年7月11日、頼清徳副総統を葬儀参列のために日本に派遣した。1972年の日中国交正常化で日台の国交は途絶え、台湾高官の訪日はきわめて異例。1985年に李登輝副総統(当時)が中南米から台湾に戻る際、日本に立ち寄ったことがある。台湾メディアによると、このケースを除けば、今回が訪日した現職の高官では最高位だ。

   日本政府が頼氏の入国を認めたことで、中国側が反発するのは必至。ただ、台湾側は訪日についてコメントせず、日本側は「私的に訪日していると承知している」。積極的な発信を避け、表向きには中国に配慮した体裁を取った形だ。頼氏は訪日直前のフェイスブックの書き込みで「台湾と日本の友好関係を引き続き深めていく」ことの重要性を訴えており、弔問外交で実質的な日台関係の強化につなげる狙いもあるとみられる。

  • 安倍晋三元首相の葬儀に参列した台湾の頼清徳副総統。現職の高官が訪日するのはきわめて異例だ(写真:ロイター/アフロ)
    安倍晋三元首相の葬儀に参列した台湾の頼清徳副総統。現職の高官が訪日するのはきわめて異例だ(写真:ロイター/アフロ)
  • 安倍晋三元首相の葬儀に参列した台湾の頼清徳副総統。現職の高官が訪日するのはきわめて異例だ(写真:ロイター/アフロ)

台南市長や行政院長を歴任した「与党・民進党のホープ」

   頼氏は内科医で、1998年に国会議員にあたる立法委員に当選。台南市長や首相にあたる行政院長を歴任した。2024年に予定されている総統選では、与党・民進党のホープとして出馬が取り沙汰されている。国会議員時代には日本や米国に訪問団を率いて議員外交を進めたほか、副総統に就任する直前の19年には日本の衆院議員会館で日台関係について講演したこともある。

   頼氏は安倍氏の訃報が伝わった22年7月8日夜、日本語で次のようにツイート。安倍氏の死去を悼んだ。

「私の心は悲嘆に暮れています...安倍元首相のご冥福をお祈りすると共に、ご家族の皆様がお力を落とされることなく、心を強く持たれることを祈っています。安倍元首相のご意思を引き継ぎ、私たちは民主主義という共通の理念を守り続け、決して放棄しないことをここに固く誓います」

   フェイスブックの中国語による書き込みでは、安倍氏の日台関係への貢献をたたえた上で、

「『台湾と日本の友好関係を引き続き深めていく』ことは、両国の官民の最大のコンセンサスだ」

とも指摘した。

台湾総統府「この旅行についてコメントも説明もしない」

   7月11日には、駐日大使に相当する台北駐日経済文化代表処の謝長廷代表をともなって安倍氏の自宅を弔問に訪れた。この様子が日本メディアの中継映像に映っており、それを見た台湾メディアが頼氏の動静をいっせいに伝えた。

   自由時報によると、今回の訪日は「台湾と日本の暗黙の了解による『私的な旅行』」で、首相官邸にあたる総統府の報道官は「安倍元首相のご家族を尊重し、総統府はこの旅行についてコメントも説明もしない」などと話したという。

   日本側も情報発信は抑制的だ。林芳正外相は7月12日午前の記者会見で、頼氏の訪日に関する所感を問われ、次のように応じた。頼氏の名前や肩書きに言及せず「今ご指摘のあった人物」と述べるにとどめることで、中国側に与える刺激を減らす狙いもありそうだ。

「今ご指摘のあった人物については、安倍元総理の葬儀の参加するため、あくまで私人として、私的に訪日していると承知している。いずれにせよ、台湾との関係を非政府間の実務関係として維持するという我が国の基本(的)立場、これには何ら変更はない」

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)

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