全日空(ANA)は2022年7月1日、超大型旅客機のエアバスA380型機の定期便としての運航を2年3か月ぶりに再開した。ハワイへの新たな足として19年に就航したが、ほどなくコロナ禍の影響が深刻化。20年3月下旬にホノルルから成田に戻った便を最後に定期便としては運休が続いてきた。水際対策の緩和などで海外旅行への需要が戻りつつあることから、再開を決めた。
原油高による燃油サーチャージ(燃油特別付加運賃)や円安など、海外旅行には新たな逆風も吹く。それでも井上慎一社長によると、こういった状況に「お客様のハワイに行きたいという思いが勝っている状況」。ハワイは「観光旅行のシンボル」だとして、それ以外の地域についても「だったら、前のように海外旅行行きたいね」といった機運が盛り上がることに期待を寄せている。
ファースト、ビジネスクラスから席が埋まる
ANAのA380には、ハワイでは神聖な生き物だと考えられているウミガメのハワイ語の愛称「ホヌ」にちなんで、「空飛ぶウミガメ」の意味を持つ「FLYING HONU」(フライングホヌ)という愛称がついている。定期便の運休が続く間、国内線の遊覧飛行を行ったり、空港に駐機する機内で機内食を食べて旅行気分を味わうイベントを開いたりして活躍の場をつないできた。3機保有するうち、1号機と2号機は21年8月に臨時便としてハワイを1往復ずつしており、ハワイに飛ぶのは10か月半ぶり。
22年7月1夕に成田空港の搭乗ゲートで開かれた式典では、アロハシャツにレイ姿の井上氏が
「世界最大の旅客機、A380型機、通称『フライングホヌ』、ついにホノルル線に戻ってまいりました!」
とあいさつ。見守っていた乗客からは拍手が起きた。
現時点では比較的富裕層の「ハワイ熱」が先行している可能性もあり、それがどの程度広がるかも焦点だ。A380には乗客520人が乗れる。2階席(アッパーデッキ)には、ファーストクラス8席、ビジネスクラス56席、プレミアムエコノミー73席を配置。1階席(メインデッキ)にはエコノミークラス383席がある。7月1日夕の便には、乗客414人が搭乗。そのうち座席を使用したのは乳児5人を除く409人で、搭乗率は78.7%だった。クラス別に見ると、ファーストクラス8人、ビジネスクラス55人、プレミアムエコノミー53人、エコノミークラス293人。ファースト、ビジネスがほぼ満席だったのに対して、ボリュームゾーンのプレミアムエコノミー、エコノミーの搭乗率はそれぞれ72.6%、76.5%と差がある。
5月にハワイを訪れた人は「コロナ前」の91.6%、そのうち日本からは...
現時点で、日本からのハワイ観光は回復途上だ。ハワイ州産業経済開発観光局(DBEDT)が6月30日に発表した統計によると、22年5月にハワイを訪れた人は77万6375人で、「コロナ前」の19年5月の84万7396人の91.6%に回復している。そのうち、日本からは7167人。コロナ禍が本格化した20年4月以降で最多だが、19年5月の11万3226人と比べて6.3%にとどまっている。
DBEDTのマイク・マッカートニー局長は統計発表に合わせて出した談話で、
「22年後半には、米本土からの便が減少するとみている。だが、日本からの入国者が増え、外国人旅行者の着実な回復を期待している」
などと指摘。今後のリスクについても次のように言及した。
「燃料費の高騰、航空路線の縮小、人手不足、インフレ、物価、為替レートなど、世界的に不透明な状況が続いており、旅行者が目的地を決める際に影響しているため、引き続き注意が必要だ。」
式典後に報道陣の取材に応じた井上氏は、予約状況について
「4月の連休から見ていると、トレンドはまだ衰えておらず、現状は予約がまだまだ積み上がる状況」
だと説明。統計で発表された5月時点よりも状況は改善されているとみられる。記者から燃油サーチャージや円安の影響を指摘されると、
「今おっしゃったような要素はあるものの、お客様のハワイに行きたいという思いが勝っている状況だという風に思っている」
と応じた。井上氏によると、ハワイは「観光旅行のシンボル。象徴となるデスティネーション(目的地)」。復活したA380の定期便の成否が、海外旅行全体の復調を占う試金石になるとの見方を示した。
「今日のホヌの投入は、ホノルル線にとどまらず、色々な皆さんが『だったら、前のように海外旅行行きたいね』というムーブメントに広がるようにつなげたい」
現時点ではA380による運航は週2往復で、3機中2機が稼働する。井上氏によると、「ご利用いただければ、即増便」の構えだ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)