観光客の増加による「オーバーツーリズム」が課題になっている京都市。
特に紅葉シーズンにあたる11月前後は京都観光のハイシーズンになるが、公共交通機関が半ばマヒしているかのような状態だった。バス・鉄道ともに急増する観光客をさばき切れず、根本的な対策は乏しい。
「便利すぎる」市バスとバラバラな鉄道
2019年も、11月下旬の京都駅前バスターミナルは、清水寺・祇園方面を中心に毎日長蛇の列が発生し、数十分待ちが当たり前という状況が観光客らからもネットに投稿されている。寿司詰めのバスに乗れば、タクシー・マイカーや観光バスと共に渋滞に巻き込まれ、さらに時間を浪費する羽目になる。京都市営バスの状況は深刻で、バスの1時間単位の遅延はざら、観光地を経由する路線では地元ユーザーが乗車できないこともある。
バスに乗客が集中する理由は主に2つあり、「観光地へほぼバスだけで行けてしまう」「貧弱な鉄道網」となる。清水寺・祇園・岡崎・金閣寺・銀閣寺・嵐山と四方の観光地に京都駅から乗り換えなしでバス路線が走っている。加えて価格600円の市バス一日乗車券を使えば、初乗り230円の市バスでは3回乗れば元が取れてしまうリーズナブルさも拍車をかけている。
鉄道は京都駅を起点に見ると、嵐山方面にJR西日本の嵯峨野線、東福寺・祇園・出町柳方面にJR奈良線と京阪電車が走っている。他にも市内には阪急・嵐電(京福電鉄)・叡山電鉄・京都市営地下鉄が走るが、これを地図で見てみると、碁盤目状の京都市街の中で一部の主要な通り(烏丸通・四条通・川端通・御池通)をカバーするにとどまり、点在する観光スポットを網羅するのは不可能。金閣寺・銀閣寺のように鉄道を使ってもバスを乗り継がねばならないスポットが残る。
また会社ごとの「境界」も壁になる。例えばJRと京阪の乗り換えには京都駅から奈良線に乗って1駅南の東福寺駅まで行かねばならず、京阪の東福寺駅は準急と普通のみしか停車しない小駅だ。JR・京阪・阪急が、それぞれターミナルが独立しているのもわかりにくさに拍車をかける。
京都市交通局はバスの混雑緩和と地下鉄への観光客の移転を狙って、地下鉄と京都市内の市バス・京都バス・京阪バスが乗り放題の「地下鉄・バス一日券」を18年3月に1200円から900円に値下げし、同時に市バスの一日乗車券を500円から600円に値上げした。ところがこの乗車券でカバーできる鉄道は京都市営地下鉄の烏丸線と東西線の2本のみ、京都市内のJR西日本・京阪・阪急・嵐電などは対象外になる。
他の鉄道系フリーきっぷとなると、夏と冬のみ発売の「歩くまち・京都レールきっぷ」があり、京都市営地下鉄・JR西日本・阪急・京阪・嵐電の市内エリアがほぼ乗り放題で1日1300円(2日券は2000円)がある。しかし期間限定かつバスは対象外で、19年冬は12月1日から20年3月31日だけ有効なのが短所だ。10~11月という肝心のハイシーズンには使えない。なかなか「かゆいところに手が届かない」のが京都の鉄道だ。
本数も少なめ、両数の短さも弱点
もっとも鉄道の方も「飽和状態」に近づいている。特にJR西日本の嵯峨野線と奈良線は、それぞれ嵐山・伏見稲荷・宇治へアクセスできるために近年観光客が急増し、終日ラッシュ並みの混雑が発生。JR京都駅で入場規制が行われることもある。両線とも元々1時間当たり5~6本と本数は少ない上に、両数が短い(4~6両)という弱点があるために、快速列車の臨時停車やハイシーズンの増発でしのいでいる状況だ。JRだけでなく、京都の鉄道路線のキャパシティの低さもオーバーツーリズムの影響を受けている。京都市営地下鉄は烏丸線・東西線ともに6両編成、嵐電と叡山電鉄は路面電車サイズの小型な車両が1~2両編成なので、積み残しもしばしば発生している。
公共交通が悲鳴を上げ、どこに向かうにも「ディズニーランド並み」と揶揄される秋の京都だが、「観光公害」を回避する特効薬は乏しい。もはや春と秋のハイシーズンには「京都に来るな」と経験者や地元民から言われるほどで、現状では、徒歩・レンタサイクルなどで旅行者が知恵を凝らすしかない。
なお京都市の月ごとの年間観光客は、京都市産業観光局作成の「京都観光総合調査」によれば、2017年を例にとると最多は3月の543万2000人で、最少は9月の372万9000人だった。次いで観光客が少ない月は7月(381万5000人)と8月(406万8000人)で、意外にも夏休み期間の7~9月が少ない傾向を示したが、これは旅行者が夏の暑さを避けたためと考えられる。過ごしやすい春と秋に観光客が集中し、暑さ寒さの厳しい季節がオフシーズンという単純な傾向になったが、過酷な気候とストレスの多い混雑のどちらを取るか、という苦しい選択をしなければ、京都観光は楽しめないのが現状だろうか。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)