韓国海軍が、韓国が実効支配する島根県竹島(韓国名・独島)の「防衛」を想定した軍事訓練を行った。当初予定より2か月遅れで、訓練初日は、韓国側が日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を宣言してから、わずか3日後というタイミングだ。訓練規模は例年の2倍としており、イージス駆逐艦も初投入した。日本国内では「対日報復の一環」(産経新聞)との受け止め方も広がっている。
一方の韓国メディアでは様々な反応が出ている。外交ルートを通じて訓練中止を求めた日本政府に対し、「日本にとやかく言われる筋合いはない」(ハンギョレ)と突き放す社もあれば、「日本をいたずらに刺激しないように静かに実施する戦術が望ましい」と冷静さを呼びかける所もある。ただ、韓国政府は、国内メディアが「異例」と報じるほど、訓練について「積極的に広報」(朝鮮日報)している。
イージス駆逐艦も初投入
韓国海軍は2019年8月25日、当初6月に実施予定だった「独島防衛訓練」について、名称を「東海領土防衛訓練」と、日本海の韓国側名称を使ったものに変更した上で、例年の2倍の規模で訓練を2日間の日程で始めた。「突然開始」「電撃的に開始」という地元報道が出るほど急な動きだった。朝鮮日報(ウェブ日本語版、26日記事)などによると、定例訓練が1986年に始まって以来、最大規模としており、高性能レーダーなどを搭載したイージス駆逐艦「世宗大王」も初めて訓練に投入した。
訓練開始を受け、日本の外務省は25日、在日韓国大使館を通じて抗議し、訓練中止を求めた。菅義偉官房長官も同日、「竹島が我が国固有の領土であることに照らしても受け入れられない」と、都内で記者団に述べた。
22日に韓国政府がGSOMIA破棄を宣言したばかりで、日本国内メディアでは
「韓国に対する輸出管理強化に乗り出した日本への反発の意味合いが色濃い」(日経新聞、25日ウェブ版)
「対日報復の一環」(産経新聞、同)
との見立て・解説を添えて報じていた。ただ、翌26日付朝刊では、主要紙(読売、朝日、毎日、日経、産経)の社説(産経は「主張」)では、この訓練を直接テーマにした社はなかった。
ロシアや中国を牽制する狙いも?
韓国メディアでは、革新系紙「ハンギョレ」(ウェブ日本語版)が26日の社説で取り上げた。「日本の『独島防衛訓練』の中止要求は不当だ」の見出しで、日本政府による訓練中止要求に対して、「独島は歴史的、地理的、国際法的に韓国固有の領土であり、よって、(略)日本にとやかく言われる筋合いはない」と断じている。
一方、保守系紙の社説では、GSOMIA問題など米国も含めた安全保障のテーマで、今回の訓練に触れた。東亜日報(同)は、GSOMIA破棄宣言に至る経緯に触れながら、
「日本の奇襲破棄を懸念して先制対応したということだが、韓日間の不信がどの程度なのかうかがわせる。25日に始まった東海軍事訓練もそのような次元なら、韓日関係は修復不可能な状態ではないだろうか」
と指摘した。また、中央日報(同)は、
「韓国の『安保疎外』状況は避けなければならない。そのためには独島(日本名・竹島)領土守護訓練を実施しても、例年のように日本をいたずらに刺激しないように静かに実施する戦術が望ましい」
と提言した。
しかし、韓国政府は「静かに実施」どころか、積極的に訓練の様子を公表した。朝鮮日報の26日記事では、
「(韓国軍が独島防衛訓練の写真や映像を公開するのははじめてではないが)今回のように積極的に広報に乗り出すのは異例だ」
と驚いている。
もっとも、先のハンギョレ社説によると、韓国軍当局は訓練について、「日本を狙ったわけではない」と説明しているそうで、ロシアや中国の軍用機・艦艇の動きを牽制する狙いにも触れ、社説末尾では、
「不要に周辺国を刺激する理由はない。韓国政府は、日本の不当な領有権主張に断固として対応しながらも、度を越して国際紛争化することがないよう、きめ細かく管理する必要がある」
と韓国政府を諫めるような主張も展開していた。
28日には、日本政府による韓国の優遇対象国からの除外措置が施行される。韓国政府の反発が今後さらにエスカレートする可能性もあり、当面は先行き不透明な局面が続きそうだ。