2019年の6月から7月頃、「日本に来た海外の人が高確率で驚くこと」という動画が、SNSで拡散された。
駅の自動券売機で切符を買おうとしているが、買えずに困っている外国人。すると、壁から駅員が顔を見せ、タッチパネルを押して切符を発券するまでが動画に収録されている。
券売機側の壁の一部がパカリと開き、中から駅員が顔を出すことに驚く外国人だが、この動画には日本のサービス力に感心するリプライが多数投稿されている。しかし同時に、日本の鉄道の慣習を反映してもいる。それは「運賃表で目的地の運賃を確認して切符を買う」というものだ。
目的地までの運賃を確認する
動画の冒頭で、外国人は英語で「理解できない。乗りたい線がない」(J-CASTニュース編集部訳)と言っていた。券売機には運賃が表示されており、券売機上部にある路線図・運賃表を見る発想がないと買い方がわからない。
一度、目的地までの運賃を確認し、運賃が表示されたパネルをタッチして買うというのは日本では全く違和感なくスタンダードな買い方になっているが、そこには「目的地までの運賃を確認しなければならない」プロセスがある。
一方、海外の都市鉄道の中には、ディスプレイに表示された路線図から目的地を探して切符を買うこともできるようだ。そうした表示画面の写真をネット上で紹介している人もいる。
ただ、日本国内でも近年は、タッチパネルのトップ画面で駅名検索機能が付いた券売機を見るようになった。これらはいつごろから普及するようになったのか、導入理由は何なのか、JR東日本と東京都交通局に7月末に取材を試みると、意外な結果がかえってきた。
駅名検索機能付きも増えているが......
JR東日本広報部によると、2017年から自動券売機に駅名検索機能がついたタイプの導入を開始した。後に駅名だけでなく駅ナンバリングでも検索できる機能が追加された。導入理由はやはり外国人旅行者の増加を受けてのものだという。
もっと早く、2000年代に入ってタッチパネル式券売機が実用化された時点で駅名検索機能を搭載できなかったのだろうか。これについては、
「運賃表で着駅までの運賃を確認し、その金額ボタンを押すほうが、駅名を入力するよりもタッチ数が少なくスピーディーに購入できるという利点があること等を踏まえ、タッチパネル式の券売機導入時に従来の(ボタン)方式を引き継いだものです」
という回答だった。
一方東京都交通局では、駅名検索機能の導入は早かった。既に約20年前から、駅名検索機能を備えた券売機の導入は始まっていた。そして現在では都営地下鉄の駅では導入率100%となっている。さらに2017年2月から横長画面で「ICカードチャージ」「駅名検索」「運賃パネルをタッチしての購入」「切符の購入」を一括で表示できる「マルチ券売機」を導入しており、海外の自動券売機に近いUI(ユーザーインターフェース)となった。18年7月1日時点での、都営地下鉄駅での全券売機におけるマルチ券売機の導入率は78%とのことで、ようやく「券売機で運賃パネルをタッチする」習慣に頼らずに済む機器が定着しつつある。
とはいえ、既にICカードが日本でも海外でも定着し、カードの購入やチャージでしか券売機を使わない乗客も多い。「切符を買う」時の習慣のギャップに気づく機会は多くはないようだ。