官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)が役員報酬をめぐって経済産業省と対立していた問題は、11人いる役員のうち、田中正明社長ら民間出身役員9人全員が2018年12月10日に辞任を表明する事態に発展した。
国内最大の官民ファンドが発足から3か月で役員が実質的に空中分解する異例の事態は、海外でも相次いで報じられている。
「ファンドのミッションをめぐる認識の差が浮き彫りに」
経産省は9月の時点で高額の報酬を容認する文書を田中氏に提示し、これをもとにJICは取締役会を開いて報酬額を議決。にもかかわらず、経産省は11月になって、9月に提示した額を撤回した。田中氏はこのことを、12月10日の記者会見で、「経産省による信頼関係の毀損行為」だと非難し、これが9人の辞任につながったと説明。経産省の一連の行為は「日本が法治国家でないということを示している」とまで述べた。
これらの発言は多くの海外メディアも報じ、JICと経産省の溝の深さを伝えた。ウォール・ストリート・ジャーナルは、「日本版シリコンバレーに向けた取り組みは、つまずきつつある」と指摘。経産省が報酬額を撤回したきっかけになった「世論の反発」には、「日産自動車のカルロス・ゴーン前会長への批判が反映されている」と分析。ゴーン被告の高額報酬をめぐる議論がJICの問題に飛び火したとの見方だ。
ロイター通信は、今回の紛争で、「JICと政府の間の、ファンドのミッションをめぐる認識の差が浮き彫りになった。JICはKKRやベインキャピタルといったグローバルな未公開株式投資会社が行うであろう、積極的な投資を望んでいた」
と報じた。具体的には、
「JICは産業革新機構を引き継ぐ形で立ち上がり、イノベーションを加速するために資金提供することを目的としていた。だが、産業革新機構は企業救済で知名度が高かった」 などとして、JICを立ち上げた経産省と、実際にファンド運用を手掛ける田中氏らとの思惑の違いに触れた。
日経引用し「忖度人事」の見通し報じる
JICの子会社にあたる「認可ファンド」は前身の旧産業革新機構と違い、個々の投資案件で所管する経産省の意見聴取を行う必要がないため、意思決定の迅速化が期待されていた。ただ、韓国のニュースサイト「ニュースピム」は、この仕組みがJICと経産省との摩擦を引き起こした可能性を指摘。日経新聞の
「関係者は『後任は政府の意図を忖度(そんたく)できる人物が選ばれる』と見る」
という報道を引用しながら、「忖度」の意味を「具体的な指示がなくても、上司が好むように行動すること」と解説した。
中国国営の中国新聞社は
「機構の投資活動が停滞するのは必至で、経産省はさらに責任を問われることになりそうだ」
と指摘した。