2016年7月10日投開票の参院選に向けて報道各社が行った情勢調査の結果が6月24日の朝刊紙面で出そろった。総じて自民、公明の与党の堅調ぶりを伝える内容だ。
この2党に、改憲に前向きな「おおさか維新の会」「日本の心を大切にする党」の獲得予想議席を加えると、非改選議席を含めた際には憲法改正の発議に必要な3分の2を獲得する可能性が出てきた。そこで各紙が掲げた見出しは、ほぼ全く同じ「改憲勢力 3分の2うかがう」だった。実は、こういった文脈での「うかがう」という言葉は情勢報道以外ではほとんどみられない。そのため、意味を解釈するのに苦労したのか、日本語では各社同じだった見出しも英語版では表現がバラバラだ。
英語では「in reach」「close to securing 2/3」「nearing needed majority」...
憲法改正の発議には、定数の3分の2にあたる162議席が必要だ。今回改選される121議席のうち78議席を獲得すれば、憲法改正の発議が可能になる。各紙の調査では、4党で「70議席台後半になりそう」(朝日)などと要件を満たしそうなことを報じている(詳細は別表のとおり)。この調査結果に対して、実に毎日、日経、産経、東京の4紙が「改憲勢力 3分の2うかがう」の見出しを1面にかかげた(東京新聞は共同通信配信の記事を掲載)。朝日の1面トップの見出しも「改憲4党 3分の2うかがう」で、他紙とほぼ同じだ。
だが、各社が運営する英語版のウェブサイトでは、「うかがう」にあたる表現が、ことごとくバラバラだ。
「Upper house race may put Constitution reform in reach: Kyodo poll」(共同)
「Pro-constitutional revision parties close to securing 2/3 upper house majority: poll」(毎日)
「4 parties backing constitutional revision nearing needed majority」(朝日)
といった具合で、それぞれ、
「改憲が視野、射程圏内に入る」「改憲派、参院で3分の2確保に近づく」「改憲派4党、必要多数に迫る」
といった意味だ。
広辞苑にぴったりの意味はない
選挙情勢報道は、その後の選挙情勢にも影響を与えることから、報道各社も気を使う分野で、そうしたなかから「うかがう」という言葉が使われるようになったとみられる。使用の歴史は比較的古く、データベースで調べられるだけでも、1983年12月の衆院選に向けて掲載された日経新聞の情勢記事(11月16日)には、
「50議席台回復をうかがう」
という表現がある。86年7月3日の朝日新聞にも
「9回連続のトップ当選をうかがう勢い」
とあり、遅くとも30年以上は「うかがう」という言葉が情勢報道の分野では使われつづけてきたことが分かる。
広辞苑(第6版)では「窺う」を(1)のぞいて様子を見る。そっと様子をさぐる(2)ひそかにつけ入るすきをねらう。時機の到来を待ち受ける(3)見て察知する(4)手がかりを求めて調べる(5)いちおう心得ておく、と定義しているが、上記の意味とぴったり合うものはなさそうだ。
他の辞書類を見ても
「様子などをひそかにさぐる。また、密かに時機の来るのを待つ」(日本語源大辞典、小学館)
「そっとのぞく、狙う、時機の到来を待つ」(記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集、共同通信社)
といった具合で、選挙情勢報道の「うかがう」という単語は、一般的な日本語とは別の独自の進化を遂げているようだ。