広辞苑にぴったりの意味はない
選挙情勢報道は、その後の選挙情勢にも影響を与えることから、報道各社も気を使う分野で、そうしたなかから「うかがう」という言葉が使われるようになったとみられる。使用の歴史は比較的古く、データベースで調べられるだけでも、1983年12月の衆院選に向けて掲載された日経新聞の情勢記事(11月16日)には、
「50議席台回復をうかがう」
という表現がある。86年7月3日の朝日新聞にも
「9回連続のトップ当選をうかがう勢い」
とあり、遅くとも30年以上は「うかがう」という言葉が情勢報道の分野では使われつづけてきたことが分かる。
広辞苑(第6版)では「窺う」を(1)のぞいて様子を見る。そっと様子をさぐる(2)ひそかにつけ入るすきをねらう。時機の到来を待ち受ける(3)見て察知する(4)手がかりを求めて調べる(5)いちおう心得ておく、と定義しているが、上記の意味とぴったり合うものはなさそうだ。
他の辞書類を見ても
「様子などをひそかにさぐる。また、密かに時機の来るのを待つ」(日本語源大辞典、小学館)
「そっとのぞく、狙う、時機の到来を待つ」(記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集、共同通信社)
といった具合で、選挙情勢報道の「うかがう」という単語は、一般的な日本語とは別の独自の進化を遂げているようだ。