フランス・パリ中心部で起こった同時多発テロをめぐり、欧米メディアが自爆テロを「kamikaze」と表現していることに、日本国内で困惑の声が上がっている。
「kamikaze」は以前から欧米で自爆テロを意味する言葉として定着しており、元をたどれば太平洋戦争時の日本軍の「特別攻撃」に行きつく。
911の時から「kamikaze」は「自爆テロ」
「l'une des explosions près du Stade de France provoquée par un kamikaze」――スタッド・ドゥ・フランスの近くで起こった爆発は自爆テロ。AFP通信の公式ツイッターアカウントは、2015年11月13日にパリ中心部のスタジアム「スタット・ドゥ・フランス」で発生した自爆テロをこう伝えた。
ここでの「kamikaze」は自爆テロの意味で、以後事件を報じたリベラシオンやル・フィガロといった代表的な仏紙、BFMTVなどのニュース専門チャンネルでも同じ使い方が確認できる。
フランス人ジャーナリストやテレビレポーターもツイッターで事件に触れる際「kamikaze」という言葉を使い、グーグルの自動翻訳システムでも「un kamikaze」が「自爆テロ犯」と訳されるため、少なくともフランスではこうした使い方が定着しているようだ。
また仏メディア以外に、イタリア語やスペイン語圏、英語圏の一部メディアが今回のテロを「kamikaze」や「kamikaze attack」「kamikaze killer」などと報じている。01年9月にニューヨークで発生した同時多発テロを欧米メディアが「kamikaze attack」と報じて話題となったが、欧米における「kamikaze」の使用法は今も変わっていないらしい。
紀伊國屋書店が「kamikaze」書店と報じられる
テロ関連の報道に「kamikaze」の言葉が使われ始めると、日本人ツイッターユーザーから、
「日本人を連想しているのではないとしても、悲しいことだな」
「こういう所で活用されてるのは、なんだか複雑・・」
と困惑する声が寄せられた。中には、日本政府に「抗議、対処すべきだ」と指摘するユーザーも。
これより前、仏メディアは「kamikaze」という言葉をどのように使っていたのか。ル・フィガロ電子版の過去数か月の記事を見てみると、15年2月にナイジェリア北東部で発生した自爆テロ事件を「une kamikaze tue sept personnes」(自爆テロ犯が7人殺害、15年2月21日付け)と伝えるなど、アフリカやアラビア地域で当時頻発していた自爆テロ事件に関する記事にしばしば登場する。
その一方、15年9月に紀伊國屋書店がネット書店への対抗策として作家・村上春樹さんの最新作「職業としての小説家」の初版を「買い占めた」件は「Un libraire 〈kamikaze〉 défie Amazon au Japon」(「神風」書店がアマゾンジャパンに立ち向かう、15年9月8日付け)と見出しをつけて報じられた。
「kamikaze」とは、太平洋戦争時における日本軍の「特別攻撃」に由来する言葉だ。ただ、「特別攻撃」は基本的に艦船や兵士を標的とした一方、自爆テロは一般人を含めて無差別攻撃とされ、全く同じものとは言えない。また、いつ、どのような過程で「kamikaze」が「自爆テロ」の意味で使われるようになったのかも不明だ。