選挙戦での歌のパフォーマンス「全く見かけない」
セウォル号事故発生後しばらくは、韓国全体が「服喪」の雰囲気に包まれた。明るい色調の服の着用をためらう人もいたという。韓国の大手企業に勤務する女性は取材に対し、事故後数週間はテレビ番組から「お笑い」やトークショー、ドラマが姿を消したと話した。
自粛ムードは現在も続いている。前出の女性ジャーナリストは、政府関係者や上司から「今はタイミングがよくない」「喪に服す時期だ」といった言葉を今も耳にすると明かした。5月15日付の日本経済新聞朝刊は、ゴルフ場やカラオケなどのレジャー産業と、宿泊施設などの観光業界に大きな影響が出ていると伝えた。さらに修学旅行の中止が相次ぎ、5月2日時点で5400件を超えるキャンセルが発生。業界全体で約27億円の損失になるそうだ。百貨店の売上高も、セウォル号事故後はマイナスに転じた。自粛による消費の減退が続くと、韓国経済の冷え込みが懸念される。
影響は日本にも及んでいる。韓国アシアナ航空は、今夏に予定していた熊本―ソウル便の増便を中止した。旅行客の大幅な減少で需要が見込めなくなったのが原因だ。日本政府観光局によると、4月に日本を訪れた外国人観光客は全体で前年同月比33.4%増だったが、韓国は同5%減となった。
韓国では6月4日に統一地方選の投開票が行われる。今は選挙戦の真っただ中だが、ここにも自粛が広がっているようだ。通常であれば候補者が選挙カーで街を回り、歌などのパフォーマンスで有権者の注目を集めるのが韓国流だが、前出の女性会社員は「今回は大声で歌う候補者を全く見かけません。とても静かです」と明かした。
「韓国はこれまで『やればできる』の精神で、猛スピードで急成長を達成する努力を重ねてきましたが、(事故により)いったん立ち止まってこれまでのプロセスを見直す時期ではないでしょうか」と女性ジャーナリストは投げかける。そして、こう続けた。
「国家レベルでの改革の道を探す時がきたのだと思います」