2020年の東京五輪の開催が決定し、外国人観光客誘致に関心が集まっている。観光資源のひとつとして期待が集まっているのが、日本独特の「銭湯文化」だ。だが、「かけ湯」をしなかったり、下着を着たままで湯船に入ろうとしたり、と独自の作法を知らないことが原因のトラブルも頻発している。
利用客低下に歯止めをかけたい銭湯業界では、あの手この手で対応に取り組んでいる。
訪日観光客の57%が「温泉入浴が期待以上」
銭湯は利用者の減少にともなって、その数も減少の一途だ。東京都公衆浴場業生活衛生同業組合(浴場組合)のまとめによると、00年12月には1273あった都内の銭湯は、10年後の10年には801と3分の2以下に減少している。
少子化が進んでいるため、日本人の利用者が増える望みは薄い。その半面、外国人観光客が銭湯に寄せる関心は、かなり高いものがあるようだ。温泉については、特にその傾向が顕著で、観光庁が行った訪日外国人消費動向調査(13年7-9月期)で、その一端がうかがえる。
日本滞在中に行ったことを複数回答で聞いたところ、「温泉入浴」と答えた人が33.0%に達した。これは「日本食を食べること」(97.3%)「ショッピング」(78.2%)、「繁華街の街歩き」(69.2%)、「自然・景勝地観光」(59.4%)、「旅館に宿泊」(50.1%)に多い数字で、日本観光では重要な位置を占めていることが分かる。
「次回(訪日で)したいこと」の問いでは、選択肢の中では最も多い45.6%が「温泉入浴」と回答。リピーター客も見込めそうだ。
「期待以上だった活動」では、自然・景勝地観光(63.2%)に次いで多い57.0%が「温泉入浴」を挙げている。温泉に対する満足度の高さもうかがえる。
台湾人は「屋外の施設は水着で入ることが多く、他人の前で裸になることに抵抗がある」
銭湯業界からすれば、この期待の高さを逃す手はないが、習慣の違いからトラブルに発展する事例もあるようだ。例えば極端なケースでは11月22日、三重県伊賀市のマッサージ店手伝いの中国人の男(34)が、かけ湯をせずに銭湯の湯船に入ろうとしたことを他の客に注意されて立腹。男性客を拳で10発殴ってけがを負わせたとして、傷害容疑で逮捕されている。
ただ、この容疑者は10年以上日本に住んでおり日本語も話せるため、銭湯のマナーを理解出来ていなかったかどうかは疑わしい面もある。
いずれにしても、このようなルールは日本独自だとも言え、日本側から外国人観光客に伝える取り組みも進んでいる。
例えば大田区の観光協会では、区内の銭湯に「指さし案内マニュアル」を配り、外国人の入浴習慣について
「日常はシャワーのみで住ませることが多いです。入浴する場合は一人ずつお湯を入れ替えて入ります」(中国)
「台湾でも温泉は人気がありますが、屋外の施設は水着で入ることが多く、他人の前で裸になることに抵抗がある人がほとんどです」(台湾)
と、日本の習慣とはかなりの違いがあることを注意喚起。トラブルが起こった時のために、
「申し訳ありませんが、下着を脱いでお入りください」
「石鹸の泡をよく流してから湯船にお入りください」
といった注意事項を中国語や韓国語で読み上げられるようになっている。利用者向けにも、銭湯の利用方法をイラストで説明したポスターを張っている。
羽田「お膝元」の大田区は「入り方」ビデオ公開
大田区では、13年7月に「外国人のための銭湯の入り方」と題したビデオを公開。
日本語に加えて英語、中国語(繁体字)、中国語(簡体字)、韓国語の5バージョンで「脱衣所で服を全部脱ぐ(下着も)」「湯船に入る前に体を洗う」といった注意事項を説明している。
観光庁は、大田区の蒲田を訪日外国人旅行者受入環境整備事業の戦略拠点に指定している。新たな日本の空の窓口とも言える羽田空港の利用客を、地元商店街などに呼び込む狙いだ。もっとも、これらの動画の再生回数は、最も多い英語版でも1000に届いていない。ルールの理解を得るには、まだ時間がかかりそうだ。