鹿児島市・桜島の昭和火口で起きた爆発的噴火は、噴煙が5000メートルにまで達した。大量の火山灰の影響で市内は暗くなり、各所で灰が積もっている。
交通機関も影響を受けた。インターネット上で話題になったのが、九州新幹線。車内が「灰まみれ」となり乗客を困らせた。
車内放送では「火山灰なので心配ない」
桜島で噴火が起きたのは2013年8月18日。鹿児島地方気象台の発表では、時刻は16時31分で、昭和火口の活動が再開した2006年6月以降5000メートルの噴煙を観測したのは初めてだという。市上空から撮影したニュース映像を見ると、大気は噴煙の影響でよどんでおり、地面は文字通り灰色だ。積もった灰は住民へのとんだ「置き土産」となり、猛暑のなか清掃作業に追われた。
噴火から2時間ほど後、JR鹿児島中央駅に近づいた九州新幹線の乗客がツイッターに写真を投稿した。「車内が灰まみれ」なのだという。一見したところ「空気が真っ白」というほどではないが、奥のドア付近は少々視界が悪そうだ。投稿者は「空気が悪い」とつぶやき、また到着前に非常ブザーが押されたそうで「火事と勘違いした?」といぶかっていた。別の人物は、車掌が火災でないことを強調するためか、「火山灰なので心配ない」という車内放送が流れ「初めて聞いた」と報告していた。
外から新幹線「さくら」の運行中の様子を撮った写真も投稿された。まるで列車が煙をあげているようだ。どうも線路に積もった火山灰を巻き上げながら走行しているとみられる。
ただ新幹線は、非常ブザーによる数分間の停止以外はダイヤの大きな乱れはなく、その後も平常運転が続いている。車両には「火山灰対策」が施されているようで、例えば「さくら」の場合「車輪とモーターをつなぐギアボックスは水も浸入できないほど密封性を高めた」(日本経済新聞電子版2011年2月26日)。だが空気中を漂う灰が車内に入ってくるのまでは、避けられなかった。
2002年の内閣府の報告書によると、降灰による鉄道の運行不能は1985年、JRと鹿児島市電で発生した例があるという。電車の車輪とレールの間に灰が5ミリ程度はさまると、電流が流れず電車が動かなくなる。一方、2012年に鹿児島市交通局に電話ヒアリングしたところ、2011年に鹿児島と宮崎の県境にある霧島山・新燃岳が噴火した際や、2012年の桜島噴火では運行停止がなかったとの回答だった。
「宝永噴火」並みで都心は2~10センチの火山灰
専門家によると今回の桜島の噴火は、ただちに大規模な噴火につながるものではないという。鉄道にもあまり影響が出なかったのは幸いだ。もし首都圏で同様の事態になったらどうだろう。
仮に富士山が噴火したら――。確かに桜島と比べて頻繁に噴煙をあげているわけではないが、気象庁が「常時監視が必要」とする47火山のひとつに指定されている。内閣府「広域的な火山防災対策に係る検討会」は2012年、富士山が大規模噴火した際に想定される降灰による被害のシナリオをまとめている。
シミュレーションでは1707年の「宝永噴火」と同程度の爆発が起きる設定で、「総噴出量約7億立方メートルの火山灰が16日間降り続く」とした。2011年の新燃岳噴火の総噴出量が0.2億立法メートル、2000年の三宅島噴火でも0.16億立法メートルだったので、その規模の大きさが分かる。この場合、東京都心部には2~10センチの火山灰が積もる可能性があるという。神奈川県横浜市の西部から静岡県の熱海、三島付近までは10~30センチに達する予想だ。この一帯は東海道新幹線が東西を貫いている。鹿児島市交通局が、5ミリの降灰で運行不能の陥ると指摘したことを考えると、これほど大量の火山灰が堆積すれば新幹線も走行を続けられるとは思えない。
もっともこれほど大きな噴火による降灰なら、鉄道だけに限らずあらゆる交通機関が打撃を受けるのは明らかだ。だが仮にずっと規模が小さかったとしても、首都圏に影響が及べばそれが全国に波及するだろう。内閣府「広域的な火山防災対策に係る検討会」が2013年5月16日にまとめた提言の中では、「大規模降灰の知見が不足(高度に発達した都市の被災経験がない)」と指摘されており、交通機関を含む社会システムに及ぼす降灰の影響と対策の調査研究を進めるよう促している。