私は、以前から見たいと思っていた1998年のアメリカ映画「母の眠り」をAmazon Prime Videoで見ました。この作品は、ピューリッツア賞を受賞したジャーナリスト、アナ・クィンドレンの小説をもとに描いたもので、監督カール・フランクリン、脚本カレン・クロナーによるものです。
この映画は、ケイト・グルデン(メリル・ストリープ)と、エレン・グルデン(レネー・ゼルウィガー)、ジョージ・グルデン(ウィリアム・ハート)の父母と娘の物語です。(この原稿は、ネタバレを含みます)
エレン(レネー・ゼルウィガー)はニューヨークでジャーナリスとして、意欲的に生きていましたが、母のケイト(メリル・ストリープ)がガンになったため、止むを得ず故郷へ帰る決断をします。エレンは、どちらかと言えば、平凡な家庭の主婦に徹する母ケイト(メリル・ストリープ)の生き方よりも、有名な文学者で大学教授である父ジョージ(ウィリアム・ハート)のほうに、心を寄せていました。
しかし、帰郷し、母の生き方を改めて直視した娘は、やがて母への認識を変えていきます。そして、以前とは逆に、仕事を優先する父に拒否感を持つようになります。
「この苦痛から楽にして」の懇願に応えたのは...?
やがて母の病状が悪化し、母自身も自分の死を意識するようになったとき、娘に言います。
「夫は、私の人生そのものよ。結婚は譲歩の連続よ。幸福になるのは簡単よ。今あるものを愛することなのよ」
それを聞いた娘は、父への態度を改めます。母の病状は、末期症状を迎え、娘に「もう、生きるのは嫌。この苦痛から楽にして。手を貸して」と懇願します。
母の訴えに、娘はモルヒネを多量につぶして、食事に混入させようとしましたが、断念します。
母のケイト(メリル・ストリープ)は、遂に最期の時を迎え、娘のエレン(レネー・ゼルウィガー)に「愛しているわ」と言います。娘も母に「愛しています」と答え、母は娘の手を握りながら旅立って行きました。しかし、その死には謎が秘められていたのです。
母のお墓の前に娘がいると、父のジョージ(ウィリアム・ハート)がやって来て、娘に「お前の勇気には脱帽する」と言います。
娘は、父親がモルヒネを多量にすりつぶして飲ませたものだと思っていたのに、逆に父は娘を疑っていたのです。父と娘は、実はモルヒネを多量にすりつぶして飲んだのは、母親自身だったと納得しました。
お墓の前に、娘が用意した母の好きな水仙の球根を父と一緒に植える姿が、この映画のラストカットです。
この映画は、とてもわかりやすく、父と母と娘それぞれの愛情や憎悪や葛藤を描いています。メリル・ストリープもレネー・ゼルウィガーもウィリアム・ハートも感情移入ができる、素晴らしい演技をしていました。
改めて、人生と死、家庭というものを考えさせてくれる名作です。