NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の10月16日(2022年)放送回は「第39回 穏やかな一日」でした。登録者数12万人を超える人気歴史解説動画「戦国BANASHI」を運営するミスター武士道が、「第39回」の解説動画で最も熱く語りたかった「ツボ」は?
動画内容を軸に再解説します。次回放送をより楽しむための準備・復習にもお役立てください。(ネタバレあり)
ミステリアスな人物
いや~乱世乱世。どうも歴史好きYouTuberのミスター武士道です。
鎌倉殿の13人第39回『穏やかな一日』では、北条時政追放後の承元2年(1208)~建暦元年(1211)の4年間の出来事が描かれました。
御家人たちの頂点に立ち冷血になっていく義時、支配される将軍実朝、不満を漏らす和田義盛など、大きな事件こそ起こらなかったものの、これから起こる惨劇を予感させる伏線が散りばめられていました。
穏やかでもないし、一日でもないじゃないか!と言いたいところですが、今回も歴史的な解説を行ってまいります。
様々な出来事が描かれた第39回でしたが、なかでも注目したいのは、泰時の幼馴染である鶴丸が御家人に取り立てられるエピソードです。
鶴丸は、主であり育ての親でもある義時から『平盛綱』の名前を与えられました。 鶴丸はオリジナルキャラクターであると、演じるきづきさんがツイッターで言及していましたが
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』
— きづき (@kdkhjm12) May 29, 2022
鶴丸役で出演させていただきます。
出演できることが、とにかく嬉しいです!
史実にないオリジナルの人物なので、人物像を膨らませながら、1人の人間を演じていけたらと思います!#鎌倉殿の13人#鶴丸
この『平盛綱』は、実在した人物です。
まさか、オリジナルキャラクターと言及された人物が平盛綱になるとは、想定外でした。これが三谷マジックというやつでしょうか...。
それはともかく、この『平盛綱』は非常にミステリアスな人物です。
盛綱は、北条義時、泰時に仕えた有力者で、北条家の家臣でありながら、御家人でもあるという特殊な立場にあり、「御内人(みうちびと)」と呼ばれています。
その力は安達氏や三浦氏といった幕府の有力御家人にも引けを取りません。のちには、この盛綱の孫とされる平頼綱が幕府内で絶対的な権力を握りました。
記録上、初めて登場するのは...
それほどの力を持つ盛綱ですが、その出自は記録上、一切不明です。
歴史上、盛綱が初めて登場するのは、承久3年(1221年)。まさに承久の乱へ向かう北条泰時と共に出陣する18騎のメンバーの中に盛綱の名前があります。
しかし、合戦では大きな活躍もなく、どういった人物だったのかを知る手がかりもありません。その後は当たり前のように、義時や泰時のもとで活動し、やがて出世していきます。
後世に編纂された系図や軍記物語から、盛綱は平清盛の孫・資盛の子孫なのではないかとも言われていますが、信憑性はまったくありません。
『吾妻鏡』においても、本来ならその人物の由緒が書かれるべき場面で何も書かれておらず、吾妻鏡の著者でさえ、盛綱の出自はよくわからなかったのだと考えられています。
また、北条や三浦のように名字に領地名を名乗っていないことから、盛綱は私領地すら持たないような立場の人間だったのではないかとも推測されています
(のちに盛綱の子で、伊豆の「長崎郷」を与えられて「長崎」名乗る者が出てきます)。
以上のことから、「出自不明の孤児が、泰時のもとでの働きが認められて御家人に昇格する」というドラマ上の平盛綱の設定は、突拍子もないように見えて、かなり史実に迫っているように思えます。
将来幕府を牛耳るほどにまで権力を増大させる平盛綱。果たして今後ドラマの中でどのように描かれていくのか注目です。
さて、今回の記事はここまで。ドラマに関するさらに詳しい解説は、是非YouTubeチャンネル・戦国BANASHIをご覧ください。それではまた来週もお会いしましょう。さらばじゃ!
(追記:参考文献など)今回の参考文献は、「得宗被官平氏の系譜-盛綱から頼綱まで-」(梶川貴子、東洋哲学研究所紀要第34号内論文)、『現代語訳 吾妻鏡』(吉川弘文館)など。エビデンスには細心の注意を払っておりますが、筆者は一歴史好きYouTuberであり、歴史学者・研究者ではございません。もし、間違い指摘やご意見などございましたら、この記事や動画のコメント欄で教えて頂ければ幸いです。
<第39回解説動画は、(J-CAST)テレビウォッチのオリジナル記事下動画や、YouTubeチャンネル「戦国BANASHI」からお楽しみください>
++ 「ミスター武士道」プロフィール
1990年、三重県四日市市生まれ。年間100冊以上の歴史に関する学術書や論文を読み、独学で歴史解説や情報発信をするYouTuber。
一般向け歴史書籍の監修、市や県などの依頼を受けて、地域の歴史をPRする動画制作なども手掛ける。2019年に歴史解説チャンネル「戦国BANASI」を開設。2022年夏には登録者数が12万人を突破した。