<2021年回顧 ドラマ> 2021年のテレビドラマもたくさんの話題作が生まれた。「ただ離婚してないだけ」(7月~9月放送、テレビ東京系)もそのひとつ。夫の不倫から始まる夫婦の転落と再生の物語が反響を呼び、民放公式テレビポータル「TVer」の7~9月再生ランキングでは、深夜ドラマながら8位にランクインする人気ぶりだった。
大きな話題となった理由のひとつに、主人公の柿野正隆を演じたKis-My-Ft2の北山宏光さんの演技が挙げられそうだ。普段はジャニーズのアイドルとして活動している北山さんが、濡れ場や殺人、監禁などの過激なシーンを、時には「クズ男」として、時には妻・雪映(中村ゆりさん)に操られるようにして見事に演じ切っていた。
萌の弟・創甫に切りかかられ...
筆者が特に印象に残ったのが、第11話(9月22日深夜枠=23日未明=放送)で正隆が、不倫相手・夏川萌(萩原みのりさん)の弟の創甫(北川拓実さん、少年忍者/ジャニーズJr.)に襲われるシーンだ。姉の死を察した創甫が、姉と不倫していた正隆にナイフで切りかかり、倒れた正隆にナイフを突きつけて「死ね!」「姉ちゃんを返せ!」などと迫ったが、騒ぎを聞きつけた警察に創甫が連行されてしまった。正隆は着ていたダウンジャケットが切り裂かれただけで、ケガひとつ負っていなかった。
このシーンについて、監督の安里麻里さんがツイッターで
「正隆は家でダウンジャケットから舞う羽毛を見て、気づく。創甫は自分に傷ひとつつけられなかった事に。座長(編注:北山さん)は『羽毛ながめてる時「刺されたかった」て思った』言ってて、正隆はもうそんな心境なんだよなと理解したんだ」
と裏話を明かしていた。
揉み合って刺してしまった萌の死体を埋め、佐野義文(深水元基さん)を監禁し、悪事が度々発覚しそうになって心身ともに疲弊しきっていた正隆。佐野に逃げられて「死ぬか」と雪映にこぼしたこともあったが、正隆との子を妊娠していた雪映の「3人で生きていく」という強い意志に引き留められ、また引きずられているようでもあった。もう死しか自分を止められない、そんな正隆の気持ちが北山さんの「刺されたかった」という言葉につながったのかと想像し、正隆の人生を生きていた北山さんの姿にぐっときたのだった。
「ただリコ」の北山さんをはじめ、今年は「サレタガワのブルー」(7月~9月放送、MBS・TBS系)でも、元乃木坂46の堀未央奈さんが不倫する悪女・藍子を好演するなど、「ドロドロ愛憎劇」ドラマでアイドル経験者が注目を浴びた。2022年もそうした作品は生まれるだろうが、意外なキャストの知られざる魅力をまた発見できることに期待したい。
(TT)