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原節子の実像は「烈しく強い女性」だった

   ところで小津安二郎の映画といえば原節子である。監督と女優という関係だけでなく、男と女の間柄だったという噂は今も多くの映画ファンに知られている。

   小津の死を機に原は引退して、表舞台に一切出てこなかったことが、それを裏付けていると見る者も多い。原節子が亡くなって今年が7回忌になる。

   ノンフィクション作家の石井妙子が、耐え忍ぶ女性を演じてきた原だったが実像は「烈しく強い女性」だった、と新潮で書いている。

   小津とのロマンスは、女性関係が多かった小津から世間の目をそらすため、松竹が流した噂だった。原は結婚しなかったが、脚本家の清島長利が無名の助監督の時代、深く愛し合い、結婚を望んだことがあったという。

   だが、会社(松竹か?)に無残に引き裂かれてしまった。原は小津映画で自分が演じたヒロインには「共感しきれない」と語っていたという。

   つい先日小津安二郎の『晩春』(1949年公開)を観た。

   妻に先立たれた56歳の大学教授(笠智衆)が、年頃を過ぎても結婚しない一人娘(原節子)を説き伏せ、ようよう結婚することを承諾させる。

   「お父さんとこうしているときが一番幸せなの」という娘に父親は、「そりゃちがう」といい、結婚は2人でつくり上げていくものだ、それが人間生活の順序というものだ、「幸せは待っているものではなく、つくりだすもんだよ」といい含める。

   ようやく結婚した娘を東京駅まで送った父親は家に戻り、籐椅子に座ってリンゴをむく。皮が足許に落ち身体が前に傾く。

   小津は笠に、そこで号泣しろと命じたそうだ。だが笠は、それはできないと拒んだという。笠が正しかった。寂しさと哀しさがない交ぜになった父親の孤独が、観る者の心に沁みわたり、深い余韻を残す。

   さて、フライデーが長野県軽井沢町の万平ホテルの裏手にある川端康成の別荘が、取り壊しになりそうだと報じている。

   「幸福の谷」といわれる一等地にあり、地上2階、地下1階、築80年を超える木造家屋である。今年2月に管理していた川端の親族が亡くなり、それを買った不動産業者が取り壊して新たな邸を建設するため、取り壊されるそうである。

   地元住民から反対の声が強く、移築して博物館のようにして公開するという案も出ているそうだ。だが、町議会も議論はしているようだが、先立つものの目途が立たないのだろう。

   私が講談社に入社して2年目に川端が亡くなった。鎌倉の川端邸で葬儀が行われ、私は裏口を見張るようにいわれた。

   そこから入ってきたのが吉永小百合だった。熱烈なサユリストの私は、彼女を受付まで案内する間、小百合の横顔を見続けていた。川端というとあのときのことを思い出す。

   写真で見る限り古いがいい雰囲気のロッジ風別荘である。私に有り余るカネがあれば、購入して暮らしてみたいものだが。

元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任。講談社を定年後に市民メディア『オーマイニュース』編集長。現在は『インターネット報道協会』代表理事。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)『現代の“見えざる手”』(人間の科学社新社)などがある。

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