いわゆる「ひきこもり」は2019年には全国で110万人の存在が推定され、最近ではひきこもりの長期高齢化で、80代の親が50代の子供の生活を支える「8050問題」が社会問題化している。さらに、新型コロナ禍によるロックダウンや外出自粛で、世界的にひきこもりが急増するとの指摘も出ている。
そんな絶妙なタイミングで6月12日(2021年)にスタートしたのが、このドラマだ。
引きこもり経験のあるアラフィフの焼鳥屋店主が、公立中学校の不登校生徒が集まる特別クラスの非常勤講師となり、様々な問題を抱える生徒の心に深く分け入って悪戦苦闘する。視聴者も一緒にハラハラしたり身に詰まされたりしながらも、じんわりと心が温かくなる物語だ。
神奈川県川藤市梅谷町に住む上嶋陽平(佐藤二朗)は38歳の時、友人にだまされて多額の借金を背負わされたことがきっかけでひきこもりになり、妻子にも見捨てられた。11年間のひきこもり生活の末に、3年前、梅谷銀座商店街に焼鳥屋「うめ」を開いた。
「無理です」「そんな資格はない」と固辞するが...
上嶋も卒業した市立梅谷中学校の校長・榊徹三(高橋克典)は、不登校の生徒を支援するSTEPルームの非常勤講師として、そんな上嶋に白羽の矢を立てた。
しかし、かつて1人娘・ゆいとの接触も拒んで見捨てた上嶋は、榊の申し出を「無理です」「そんな資格はない」と固辞する。
ところが、ある少女と出会ったことで、上嶋の心に変化が現れる。母親に邪険にされ、学校ではいじめに遭って不登校になった梅谷中学3年生・堀田奈々(鈴木梨央)だ。上嶋は生き別れとなったゆいと奈々を重ね合わせ、関わり合いを持つ。奈々も上嶋には次第に心を開くようになっていった。
だが、それを知ったソーシャルワーカーの磯崎藍子(鈴木保奈美)は、上嶋に「不登校の問題は命の問題」「中途半端に関われば、奈々さんを傷つけることになる」と忠告し、「関わるなら、ウチの非常勤講師になるの」と説得する。
「私は汚い子」「生まれたくなかった」と泣きじゃくって橋の上から線路に飛び降りようする奈々に、上嶋は懸命に「生きよう」「奈々ちゃん、生きよう」と何度も何度も繰り返し呼びかける。上嶋が奈々に積極的に関わり、非常勤講師になることを決意した瞬間だった。
主演の佐藤は信州大学経済学部を卒業後、10年近くにわたってサラリーマンをしたり劇団の入団試験に落ちたりを繰り返した『暗黒の20代』を経験した苦労人。
そんな佐藤は、NHK総合「土曜スタジオパーク」に生出演した際、このドラマにかけた意気込みを「いまだにひきこもりは『甘え』ではないかという声もあると思います。そうではなくて一番苦しんでいるのは本人だし二番目に苦しんでいるは家族、周りの人......。このドラマで『甘えだ』という声を覆したいとある種の決意を持って望んだ」と語った。
一方、奈々役の鈴木梨央は、自身も中学2~3年のころに部屋に閉じこもった経験があり、その実体験をもとに役作りや演技に臨んだという。
そんな2人が演じる「かつて負った心の傷から立ち直りきれていない大人」と「今この瞬間に愛情に飢えて苦しんでいる子供」が出会い、これからお互いにどう変わり、どんな成長を見せてくれるか、楽しみだ。
初回放送を見逃した人には、16日よる11時40分からの再放送がある。(毎週土曜よる9時~ 全5回)