<朝ドラ、今週の山場は?> 「おちょやん」の最終週、一番気になったシーンは水曜(2021年5月12日)放送のこの場面。一平との再会を果たした千代が、長い沈黙の後、灯子と一平の前で話し始める。そして、大好きな道頓堀でもう一度だけ芝居をやり、その舞台姿を春子に見せたいと言った直後、離婚の原因となった、一平と灯子の間にできた赤ん坊が泣き出してしまう。
灯子が隣の部屋に赤ん坊をあやしに行くが、千代はしばらく黙ったあと、ぐるり振り返って赤ん坊の泣いている襖を開け、灯子が抱いている赤ん坊と対面するのだ。
春子のことを思う「母の気持ち」
赤ん坊が泣き始めると、千代がうつむいてしまうから、「辛そう」と一瞬思うが、うっすらと笑を浮かべながら顔を上げ、ガッチリと強い視線で一平を見つめる。このとき「千代の勝ち!」と、思わせるほどの成長した女性の強さを見せつける。そして母のように大きくて強くなった千代の心が、赤ん坊の泣き声に怯むことなく、襖を開けさせたわけだ。
一平と離婚をすることになり、芝居をやめ、道頓堀から逃げるようにいなくなった時の千代の心はもうどこにもなく、一平や灯子への嫉妬心も忘れ去られ、ただ春子のことを思う母の気持ちであふれていた。赤ん坊をあやす灯子に向かって「その子、大事に育ててはりますのやな」とすっかり優しいの母の表情に。
この場面は、桂春団治が大ヒットしている一平の表情についても見逃せなかった。千代が振り返って襖を開けた瞬間、ほんの少しではあるが、いつまでも勝ち目がない、千代という人への畏怖の気持ちが現れていたように思う。
しかし灯子という役柄は、最後まで嫌われ役に徹するようだ。一平と二人で会うものかと思いきや、灯子まで同席する意味がある?と感じながら迎えたシーンだが、なるほど千代の心の強さを表すためには無くてはならない存在か。
この放送の2日後、14日の放送で最終回を迎え、道頓堀の舞台に立つ千代に大きな注目が集まった。しかし、12日のこの場面は、最終回へ向かう導線としては十分な見せ場だった。竹井千代という人の凄みを感じるシーンであり、このドラマの真骨頂だったともいえそうだ。
(Y・U)