当代を代表する実力派の吉田羊と國村隼がW主演し、ケレン味のない自然体で、もどかしくも切ない親子の絆を演じる滋味あふれるドラマだ。
40代半ばの蒲原トキコ(吉田羊)は、「晴れときどきお悩み」という人生相談が人気のラジオ番組のパーソナリティーでエッセイスト。古希を越えた父・蒲原哲也(國村隼)は、かつては会社を経営して羽振りのいい時期もあったが、会社の倒産で全財産を失い、今はスッカラカンだ。今で言う『負け組老人』だが、いじけた様子はなく、おしゃれなファッションを着こなし、飄々と生きている。
父娘の心の機微描く
トキコの母(富田靖子)は20年前に亡くなり、トキコはその後、2度ほど哲也と一緒に暮らしたが、勝手気ままな哲也と折り合いがつかず、今は2人とも1人暮らしだ。
その母の墓参りの帰り、哲也が「東京郊外の公団住宅に引っ越したい」「家賃12万円で少し援助してほしい」と言い出した。そこで、トキコは哲也のことをエッセイに書き、その原稿料で援助することを決めた。
トキコは、母親の人生を本人の口から聞けなかったことをとても後悔していて、父親に対しても同じ思いはしたくないと考えたのだ。
そんなわけで、疎遠だったトキコと哲也は頻繁に会うようになった。それでも、何か特別なことをするわけではなく、ケアハウスに入居している母親の妹(松金よね子)を2人で訪ねたり、トキコが哲也の顔のシミ取りに付き合わされたり......と、『老人あるある』的日常が描かれていく。
時折、昔の哲也の不倫現場を目撃したトキコの記憶がフラッシュバックし、現在も女性の影が垣間見えるといった波乱要素を織り込みながら、老いてなお残りの人生を精一杯楽しもうとする哲也と、そんな父に振り回され、愛憎相半ばする感情を抱きながらも支えようとするトキコの、2人の心の機微が、淡々と、時にユーモアとペーソスを交えながら描かれる。さりげなく盛り込まれたエピソードにドキッとし、身につまされる視聴者も多いだろう。
ジェーン・スーの自伝的エッセイ
このドラマのもう1つの見どころに、トキコがラジオ番組の中でリスナーからの悩みに答えるシーンがある。毎回どの質問にもリアリティーがあり、トキコは、あるときは当意即妙に、あるときには心の奥底から絞り出すように回答する。いつの間にかトキコと一緒に、自分ならどう答えるかと考えている視聴者も多いだろう。
それもそのはず。このドラマの原作は、トキコと同じくラジオ番組のパーソナリティーを務めるエッセイストにして音楽プロデューサー、ジェーン・スーの自伝的エッセイ。そのラジオ番組の中の「お悩み相談コーナー」が大人気で、リスナーから「人生相談の名手」と言われているのだ。劇中の相談シーンのセリフは、すべてジェーン・スー自身の監修のもとに制作されているというから、その迫真の内容に思わず引き込まれるのも無理はない。
ちなみに、ジェーン・スーは『芸名』で、生まれも育ちも東京都文京区の日本人。実際に本人も24歳のときに母親を亡くし、『石原慎太郎と渡邊恒雄を足して2で割らない』父親との2人家族だ。
ともあれ、老親世代もその子供の中年世代も、このドラマを観てしみじみと感じるものがあるはず。週末の深夜、心にわだかまる『肩の荷』をちょっと下ろしてみませんか?(毎週金曜深夜<土曜未明>0時12分~)