吉沢亮主演のNHK大河ドラマ「青天を衝け」第9話が4月11日(2021年)に放送され、幕末のクライマックス桜田門外の変が登場した。ネット上では「残酷な場面が素晴らしい映像美で描かれた」という称賛の声があふれる一方、「小学生向けのマンガ日本史か」と残念がる声も多かった。
物語は、井伊直弼(岸谷五朗)の安政の大獄により、斉昭(竹中直人)や慶喜(草彅剛)は蟄居を命じられる。尊王攘夷を掲げる志士の怒りが爆発。外国人を狙った襲撃事件が次々と起こる。直弼は将軍・家茂(磯村勇斗)から水戸家中の浪士が、自身の命を狙っていると聞く。家茂から「そなたは一度大老の職を退いてはどうか」と提案された。しかし「憎まれごとはこの直弼が甘んじて受けましょう」と聞き入れなかった。
「桜田門外の変は圧巻で鳥肌ものでした」
そして「桜田門外の変」が起こる。雪が降る中、直弼は水戸浪士に襲撃される。ピストルで撃たれ、かごの中から引きずり出されて首を切り落とされた。水戸では斉昭が病死した。父の死を耳にした慶喜は慟哭する。一方、江戸から戻った長七郎(満島真之介)に感化され尊王攘夷に傾倒し始めた栄一(吉沢亮)。千代(橋本愛)に「百姓だからと軽く見られるのは代官や殿様のせいではねえ、この世がおかしいからだんべ」と話す。「幕府がおかしいのかもしれねぇ」と。喜作(高良健吾)に続いて自分も江戸へ行きたいと父・市郎右衛門(小林薫)に懇願するが...という展開だった。
ネットではこんな称賛の声があふれた。
「ここまで面白い大河は『真田丸』以来。脚本が素晴らしい。渋沢栄一周辺の話と幕府の話の場面切り替えが実に自然で違和感がない。テンポが見事。あっという間の45分。そして映像も美しい。桜田門外の変は圧巻で鳥肌ものだった。毎回、最初のテーマ曲と映像のシンクロも絶妙。出演者の名前が出るタイミングも最高。特に草彅剛が表示される瞬間と最後の和久井映見、木村佳乃、堤真一、小林薫の流れるような出方。最高!」
「渋沢栄一さんの自伝『雨夜譚』を読むと、実業家として落ち着くまでは、いつ死んでいてもおかしくないぐらいに波乱万丈で凄い青年期を送っていた。とても魅力的で大河ドラマの題材として、非常に面白い人物を主人公に選んだと思う。今日のお話は井伊大老が水戸浪士によって暗殺される展開だが、その時代背景がきちんと描かれていて、かなり見応えがありましたね!!」
ピストルを使った新説を出す納得の暗殺シーン
「桜田門外の変のシーンは狂言、鬼ケ島の舞台と斉昭の水戸での子供たちとの楽しいひとときをフラッシュバックして秀逸だった。井伊直弼の怨念が斉昭を呪い殺したのかも。栄一も平和な古里から怒涛が押し寄せる時代の波に飲み込まれていく。平穏な血洗い島から動乱の江戸へ。いよいよストーリーが動き出す。来週が楽しみだ」
「ツッコミ所といえば、直弼が家茂の前で『井伊家は代々公方様を御守りすべく、常に矢面に立ちます』と言って、大見得を切ったポーズをしたピース。将軍として推戴した家茂に精一杯のお茶目さを示したのではないか。次週で家茂と和宮とのロイヤルウェディングやら、坂下門外での安藤信正襲撃と、中央政界が超音速な進行になってきている」
桜田門外の変の描き方が、映像美の極致だという声が多かった。
「安政の大獄からの桜田門外の変への流れを、わかりやすく丁寧に描いてくれて本当に面白い!井伊直弼が少し良い人に見えてしまうぐらい。自分が憎まれても職務を全うして家茂の幕府を守りたかったのがよくわかった」
「桜田門外の変のシーンが、狂言、斉昭の姿が交錯する演出法によって、これほどまでに劇的に描き出されるとは...。思わず見入ってしまいました。とても残酷な場面でありながら、相反する映像の美。また、謹慎中の慶喜(草彅剛)の演技もとても素晴らしかった」
「桜田門外の変。ピストルを使ったところ。暗殺成功もこれなら納得できる。最新の説が使われていて感動しました!」
斉昭、直弼、左内ら主要人物の一気の退場がスッキリしているとの声も。
「斉昭、直弼、左内など時代の重要人物が次々と一気に退場。それぞれキャラづけされた退場の仕方に、なるほどこう来たかとドラマ的な脚色も楽しんだ。小池くんはナレ死かーいとも思ったが、ドラマでの立ち位置や粛清のバッサリ感と見ればありかな。時代の変革期に、誰にとっても善人であることも悪人であることもない哀しさが桜田門外の変の井伊と、吉子に抱かれ接吻を最期に旅立つ斉昭と対比されていた。また、不本意な謹慎中の訃報に己の立場を改めて思い知る草彅慶喜の悲哀たっぷり咽び泣くシーンも良かった」
この大河は視聴者を小学生に置いているのか
一方で、井伊直弼がたった2週で退場したことにガッカリした人も多かった。
「先週は井伊直弼を軸にその成り上がっていく様子を丁寧な心理描写で描いてとても見応えがあった。今週は安政の大獄・桜田門外の変でさらに期待したが、面白くなかった。井伊直弼はただ紙に書いた名前に赤線を引っ張るだけで、あとは左内の捕縛シーンと斉昭の永蟄居、慶喜の謹慎ぐらいでとても『大獄』には見えない。志士たちの描写も薄くて断片的だった」
「なぜ井伊がチャカポンと呼ばれ、茶の湯ばかりの能無しで温厚な性格だったのに、あんなに過激な男になったの? その変化が丁寧に描かれていないから 急に別人になって不自然に思えた」
「えっ、もう死んじゃうの? 橋本左内・井伊直弼・徳川斉昭がアッケなく退場したのは残念。この3人が、思想の深いところまできちんと描かれたようにはとうてい思えない。井伊直弼は前回でやっと始動したばかりだし、橋本左内に至ってはモブキャラ(注:その他大勢)ぶり。こうなったら遠からぬうちに暗殺されてしまうけど平岡円四郎はきちんと描き切ってもらいたい。この人、昔の『徳川慶喜』ではモブに近い扱いだったから。でも、美賀君の存在がなかなか面白く見えてきていい。この人はやはり『徳川慶喜』では、たんなる世間知らずのお嬢さまでしかなかったから新鮮に映るよ」
「残念な大河です。脚本家は本ドラマの主な視聴者を、小学校4~5年生に置いているのでしょうか?観る人ごとの解釈に幅広さを産み出す余地のない桜田門外の変でした。映像もストーリーも。江戸幕府末期に無知な小学生相手に解説する、言わば『マンガ日本史』的な 45分。誰にも文句の言われない教科書的な展開。栄一が千代に語る『代官に怒っても仕方がない』『世の中の何を変えればいいんだ?』の長い場面、台詞が長過ぎる。観ている視聴者全員が小学生だと思っているのか? 奥行きも味わいも、そして深い感銘もない。日本の歴史に無知蒙昧な人を対象にした日曜夜の『朝ドラ』としか思えない」
"大河のような朝ドラ"「朝が来た」をひっくり返した大河
しかし、その「朝ドラ」的なところが良いのだという声も多いのだ。
「栄一周辺の描写も楽しめました。あの時代の豪農には関東地方に限らず、本当にあんな情景があったかもしれないと思わされました。面白かったです。 朝廷も良かったです。笑福亭鶴瓶の岩倉具視の数千倍、良い岩倉でした(笑)」
「『青天を衝け』は、大ヒット朝ドラ『あさが来た』の脚本家である大森美香さんを迎えたことで、凄く『大河ドラマのような朝ドラ』だった『あさが来た』をひっくり返したような『朝ドラのような大河ドラマ』になって、とても親しみを感じる。何より主人公の栄一くんを、真っ直ぐな好青年として描いていることで、朝ドラヒロインが背負っていた純真無垢さを男性主人公によって体現することに成功している。だから、今回の大河は非常に楽しむことができる!!」(テレビウォッチ編集部)