2019年5月に放送されたプレミアムドラマ「おしい刑事」(全4話)が、今度は全8話と2倍の長さになって帰ってきた。
敬愛するシャーロック・ホームズばりの並外れた推理力で鋭く犯人に迫るものの、詰めが甘く、いつもあと一歩で手柄を同僚や後輩に横取りされてしまう。人呼んで『惜しい刑事』こと警視庁宇戸橋署刑事課強行犯捜査係の刑事・押井敬史(風間俊介)の活躍を描く『痛快コメディー刑事ドラマ』......と言いたいところだが、残念ながら、第2話まで観た限りでは、『痛快』も『コメディー』もイマイチな感が否めない。
その理由の1つは、主要な登場人物のキャラクターがあまりにステレオタイプすぎて、視聴者が感情移入しにくいこと。
主人公の押井は、アーサー・コナン・ドイル描くところのシャーロック・ホームズが活躍した19世紀ビクトリア朝ロンドンではやったインパネスコートを着ており、現代の日本では浮きまくり。話しぶりは1985年から1995年にかけてNHKで初回放送された「シャーロック・ホームズの冒険」で日本語に吹き替えた俳優・露口茂の口調を茶化しているようで、あざとさが先に立つ。
相棒刑事も新人鑑識係も、役どころに物足りなさ
押井が「ヨコソン君」と呼ぶ相棒の刑事で、いつも押井の手柄を横取りする横出徹(犬飼貴丈)は『合コン命』の女たらしで、事件や出世には全く興味なし。こちらは、ホームズの相棒のワトソンらしさはゼロだ。
今シリーズから登場した新キャラクター、宇戸橋署の新人鑑識係・小河内朔流(橋本涼)の役どころも物足りない。
公式HPによれば、小河内は、ドイルと並ぶ英国の推理小説作家アガサ・クリスティーが生んだ名探偵エルキュール・ポワロを尊敬し、ホームズ好きの押井とはウマが合わないということだが、これも第2話まで観た限りでは、『灰色の脳細胞』の冴えは片鱗しか見せず、ただ単に押井に突っかかっているだけにしか見えない。
どうせなら、ホームズかぶれの押井の向こうを張って、やはりNHKで1990年から放送された「名探偵ポワロ」でポワロを演じたデビッド・スーシェか、その吹き替えをした熊倉一雄の話し方のパロディー的な要素でも入っていればよかった。
原作は、現在はピン芸人「ハッピーマックスみしま」として活動する三島裕一とお笑いコンビ「セーフティ番頭」を組んでいた元芸人で、2014年に初めて書いた長編ミステリー小説「神様のもう一つの顔」で第34回横溝正史ミステリ大賞を受賞して作家に転じた藤崎翔の小説。
これまでのところ、元お笑い芸人とミステリー作家の『2つの顔』を持つ藤崎の経験と実力が十分に発揮されているとは言いがたい。
何やら『隠し球』が用意されている気配も...
とはいえ、全8話の起承転結で言えば、「起」から「承」に移ろうというところで、評価を下すのは早計かもしれない。「お楽しみはこれからだ」という番組関係者の声も聞こえてきそうだ。
実際、押井と横出の予定調和的なクサいやり取りも、何とかの干物と同じで、慣れてくればそれなりに楽しめるから不思議だ。
本家ドイルの小説にはないキャラクター、真面目すぎる新人刑事・美良山来海(白石聖)が、最後の最後にダメな先輩たちを差し置いて、鋭い推理でズバリと事件を解決していまうというオチは、意外性があって面白い。だが、毎回同じオチだと見透かされ、飽きられてしまいそうだ。
また、食品会社のワンマン会長が殺された第1話で、脚の骨折を偽装するなど怪しい匂いをプンプンさせていた会長付き運転手・芳川明(武田真治)が、第2話にもチラリと登場し、21日放送の第3話以降、全体のストーリーの展開に本格的に関わってきそうなのも気になるところだ。
ホームズをして「犯罪界のナポレオン」と言わしめた天才的犯罪者モリアーティ教授のように、押井の前に立ちふさがる羽堂亜郎という謎の男も登場するそうだが、それが芳川だったりして......。もしかしたら、第2話で押井にネクタイピンをプレゼントした風変わりな女子大生・嶋ありさ(萩原みのり)が、ホームズを知能と美貌で翻弄するアイリン・アドラー?......と言った具合に、何やら『隠し球』がいくつか用意されていそうな気配もある。
ちなみに、第1話のサブタイトル「残念な男の帰還」は本家のタイトル「シャーロック・ホームズの帰還」、第2話「女子寮の醜聞」は「ボヘミアの醜聞」、第3話「三人の小学生」は「三人ガリデブ」をもじったものだが、内容は原作とは関係なさそうだ。
ともあれ、ホームズもポワロも同じぐらい好きな視聴者として、番組自体が『惜しいドラマ』とならないよう、今後の『大化け』を期待したい。(毎週日曜よる10時~)
寒山