もしあなたが新型コロナウイルスに感染したら家族に何が起きるのか。新規感染者(2020年11月から12月17日まで)の42・8%が家庭内感染。他人事ではすませられない広がり方だ。
長谷部元信さん(59)宅では一家5人全員が感染した。8月12日ごろ、まず元信さん自身が発熱。当初は熱中症かと思い、会社を休んで家族と自宅で過ごしていた。コロナ感染は想定しなかった。15日に体温が39度まで上がり、検査すると陽性と分かり入院。ここから、高齢の母も咳が出てべつの病院に入院し、息子2人はそれぞれ臭覚と味覚なし。妻は無症状だったが、感染が分かり、息子たちとはべつの施設に入った。
家族はばらばらに治療・療養、携帯電話が唯一の連絡手段となった。21日には元信さんの容態が急変。しかし、家族は病院から「問い合わせは控えて」と言われた。元信さんが話せる状態でなく、病院スタッフも忙殺されていたためか。励ますこともできなかった。1週間後、元信さんは意識を取り戻し、ほかの家族も全員回復した。
高齢者のいる家庭は深刻だ。介護サービスが利用できなくなる
深刻なのは高齢者がいる家族だ。認知症の父(88)を神奈川県の自宅で介護する金井晃さんは9月、コロナ感染と診断された。父は濃厚接触者とされ、週5日のデイサービスが利用できなくなった。受け入れ先を探したが、どこも断られた。金井さんは自宅で療養しながら介護を続けるしかなかった。
食事や排せつ物の処理で接触は避けられず、「コロナを父にうつしたら殺してしまうんじゃないかと思った」そうだ。幸い父は感染せず、金井さんも軽症で回復したが、認知症状は進んでしまった。
都立大塚病院に夫婦と6歳の娘が入院した一家。夫とはべつの病室に娘と入った40代の妻は「娘に感染させてしまったので申し訳ない気持ち」という。自分を追い詰めてはと病院スタッフは案じるが、スタッフ自身への院内感染リスクがあり「病室に入れる時間は限られ、十分なケアができずにもどかしい」(看護師長)状態だ。
家庭内感染の症状は一人ひとりちがう。後遺症が長引くこともある。夫婦ともに感染し軽症で回復した30代女性は、頭痛と食欲不振の後遺症で家事が思うようにできなかった。
来年(2021年)に大学受験をひかえる長男と母親のケース。長男は3月下旬にコロナ感染らしい症状が出ながら、発熱が4日以上続かなかったとの理由でPCR検査を受けられなかった。半年後、母子とも倦怠感が続き、コロナ後遺症と診断された。母親は離職に追い込まれ、長男は受験にいまも不安を抱える。
感染を想定、あらかじめ話し合っておく
コロナウイルスは、発症の2日前から発症後7~10日間が感染可能性期間という。どうしたいいのか。
感染症対策コンサルタントの堀成美さんは「家族の誰かが発症したら、家の中でもマスクをする」「部屋をべつにする。できなければ、ソファーとテーブルで分ける」「寝るときは頭を並べず、顔も離す」「食事の時間をずらす」「風呂やシャワーは病人を最後にし、入浴後は触った所を洗剤で洗う」ことをアドバイスする。感染した場合の仕事の分担や避難場所をあらかじめ相談しておくのもよいという。
家庭内感染した人を守る取り組みも、全国的にはまだ十分ではないが、始まっている。神戸市は家族が感染した高齢者向けの一時滞在施設を5月につくった。埼玉県は特別養護老人ホームの駐車場に一時受け入れ施設を設け、老人福祉施設協議会からスタッフ派遣を受けて24時間支援態勢をととのえた。東京都港区は18歳未満の子供を預かる施設を設けている。
医療崩壊が危惧される中で、個人も医療機関もやれることはきちんと、それも具体的にやっていかなければならない。もちろん、政府や自治体もだ。
あっちゃん
※NHKクローズアップ現代+(2020年12 月18日放送「急増 家庭内感染 家族の命をどう守るのか」)
次回は1月5日(火)から放送を再開する。