2004年夏、大学時代の友人・岡嶋昭彦(北村一輝)が所長を務める埼玉県所沢市の小さな設計事務所に勤務する建築士・青瀬稔(西島秀俊)は、岡嶋と2人で長野県軽井沢町の信濃追分に向かった。
青瀬は1年前、輸入雑貨卸会社のサラリーマン・吉野陶太(伊藤淳史)から、眼前に浅間山を望むこの地に「あなた自身が住みたい家を建てて下さい」という依頼を受けた。青瀬は奇妙な依頼に戸惑いながらも岡嶋のバックアップを受け、通称・Y邸を完成させた。ところが、数日前、吉野一家がそのY邸に住んでいないことが発覚したのだった。
青瀬と岡嶋がY邸に到着すると、実際に誰も住んでおらず、ドアにはこじ開けられた跡があった。中に入ると、1階には電話があるだけで、2階には古ぼけた一脚の椅子がポツンと置かれていた。岡嶋は、その椅子はドイツの建築家ブルーノ・タウトが設計した椅子ではないかという。
タウトは昭和初期、ナチス政権による弾圧から逃れるために日本に亡命してきた建築家で、群馬県高崎市の少林山達磨寺の境内にある洗心亭に2年余り滞在した。その椅子は、確かにタウトの設計によるものと判明した。
バラバラと思われていた謎がパズルのように1つに組み合わさる
青瀬はその『タウトの椅子』を唯一の手がかりに、吉野失踪の謎を追う。
吉野が住んでいるはずの東京・下町の古びた長屋を訪ねると、吉野は3カ月ほど前から行方が分からなくなっていた。吉野が背の高い女と一緒に、信濃追分の蕎麦屋に現れたのも3カ月前だった。さらに、青瀬の別れた妻・ゆかり(宮沢りえ)の元に、吉野と名乗る男から頻繁に電話がかかっていたことも分かった。
そもそも東京に住む吉野がなぜ、所沢の小さな設計事務所の青瀬に「あなた自身が住みたい家を」と依頼してきたのか? 吉野一家はなぜY邸に住まなかったのか? 吉野は自ら失踪したのか、それとも何らかの事件に巻き込まれたのか? 吉野と一緒にいた背の高い女はゆかりで、ゆかりが吉野の失踪に関係しているのではないのか? なぜY邸にタウトが設計した椅子が残されていたのか?――青瀬の執念の調査でやがて、バラバラだと思われた様々な事柄の関連性が明らかになってきた。
すると、かつて青瀬家を襲った悲劇の真相が、まるですべてのピースがしかるべき場所に収まったジグソーパズルのように、ハッキリと浮かび上がってくるのだった。青瀬が高校生のとき、父親の年雄(寺脇康文)が、山中で崖から転落して死亡した。年雄の死はずっと、鳥籠から逃げた九官鳥を捕まえようと山に分け入り、誤って転落したものとされていたのだが......。(よる9時放送)
寒山