物語としても謎解きゲームとしても楽しめる
とは言え、決して堅苦しいドラマではない。安吾は、夏目漱石や志賀直哉らに代表される『正統派文学』に対して、庶民生活の中の滑稽さや洒落、人情など描いた江戸期の通俗文学である『戯作』の精神の大切さを主張し、それゆえに『新戯作派』とも称された。
その安吾が「物語としても面白いし、謎ときゲームとして探偵小説本来の推理のたのしみ、読者の側から云えばだまされる快味にもかなうような捕物帖」として書いたミステリーが面白くないわけがない。今週以降のタイトルを見ても第2話「死神人力車」、第3話「万引き一家」、第4話「リンカーンの影」......と興味をそそられる。
福士演じる新十郎は、山高帽にグレーの幾何学模様のマント、赤いストライプも鮮やかなマフラーというスタイリッシュな出で立ちで、小気味よく事件の謎を解いていく。ほかに、密かに思いを寄せる新十郎を莫大な財力で助ける大政商の美貌の令嬢・加納梨江に内田理央、気風のいい元深川芸者で海舟の妻・民に稲森いずみ、新十郎の相棒を自称する剽軽な泉山虎之介に矢本悠馬など、多彩な俳優陣が物語を盛り上げる。
週末の夜に老若男女が等しく楽しめ、しかも棘も毒もある第1級の娯楽番組の登場だ。(毎週金曜よる8時~)
寒山