コロナ震源地・武漢の現実は極端な監視社会 独裁国家の恐怖

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   新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が世界で初めて中国・武漢で発生してから1年。今年(2020年)11月、同市内では「闘いに関する展覧会」が開かれていた。ずらりと並ぶ防護服、「英雄城市」「英雄人民」と大書きした看板、もちろん習近平主席の写真......いかにウイルスを封じ込めたかを大々的に宣伝するイベントだ。

   中国は「世界に先駆けてウイルスに打ち勝った」と言い張り続けている。しかし、そこにはパンデミック「震源地」の責任を問う声をも力で封じ込め、批判を許さない独裁国家と監視社会の素顔がちらつく。

   中国は「武漢では今やウイルス感染は発生していない」と主張するものの、WHO(世界保健機関)の詳しい現地調査はいまだに実現せず、国際社会から懸念の声があがる。武漢はいま、どうなっているのか。

   企業に中国政府はコロナ対策の徹底を求めている。毎朝出社時に検温し、新しいマスクに交換。従業員一人一人の電話番号や個人情報を当局に提出、日々の体温を記録し、発熱した者は当局に報告される。社員食堂では一つの机に従業員1人ずつで食事をし、社長が「距離を保つ、同じ方向を向き、話すことは禁止だ」と強調していた。

   市民一人一人にも、1月の都市封鎖から監視が強化された。各居住区には「管理者」が配置され、住民はゲートで出入りチェックを受け、1日2回の体調報告が義務づけられる。これが4月の封鎖解除後も続き、感染者が確認された5月には、1000万人近い市民にウイルス検査が実施された。

   市民がいま恐れているのは、家族が風邪などで体調を崩すこと。「実名で薬を買う。管理者が一緒でないと売れないと言われた」

   薬局に行ってみると、身分証明書の提示を求められた。薬購入者の体温や電話番号が登録される。

作家・方方さんの日記は出版禁止

   こうしたありのままの現実を、武漢在住の作家・方方さんは日記につづり、ネットで公開した。「誰が武漢の封鎖を招いたのか」「900万人を自宅に閉じ込めておくのは奇観だが、自慢してはいけない」と語り続けてきた。現状を「中国人は政府の指示に服従するのが習慣になっている」「自由と命を天秤にかけ、中国人は命を選んだ」と指摘する。日記は当局に幾度となく削除され、方方さんの作品は中国では出版できない。

   コロナ感染者遺族の声もかき消される。1月に骨折した父親を病院に入院させた張海さん。父は手術後に発熱、コロナ感染が確認され、入院2週間後に死亡した。「深刻な感染が伝えられていれば、病院に連れて行かなかった」という。当時武漢市の担当者は「人への感染可能性はゼロではないが、リスクは低く、予防もコントロールも可能だ」とし、当局は感染に警鐘を鳴らす情報を「デマだ」と打ち消していた。

   張さんは「彼らは大ウソをついて人命を無視した」と、当局の情報隠ぺいを提訴しようとしたが、受理されなかった。10月に習近平主席宛の嘆願書を郵送すると、11月には警察署で4時間、事情聴取された。「法治とはなんだ? 隠ぺいした人を摘発しないで、告発した人をいじめる」と憤る。

   遺族の中には当局の監視や「仕事を奪われるかも」という家族の不安から訴えをあきらめる人もいる。24歳の一人娘をコロナで亡くした楊敏さんは「怖い。重荷を負いたくない」ともらした。

   方方さんは「こびへつらい迎合する声しか許さず、まっとうな批判さえ容認できない社会は危険で、未来はありません」「ある国の文明度を測る基準は都市の繁栄でも、軍隊がどれだけ強大かでも、科学技術が発達しているかでもありません。弱者に対して国がどういう態度をとるかということです」と思いを語った。

   ドイツ在住の作家・多和田葉子さんは「武漢市民はコロナが非常に近い。政府の暴力も近く、肉体的にもコロナと政治を体験している」と分析する。武漢の現実は、コロナで権力がどこまで国民の権利を制限できるかを問いかけているという。

   中国の人権抑圧は香港を見ればわかる通りコロナ対策から始まったわけではないが、多和田さんは「独裁制の方が政策のスピードが速いから民主制よりもいいんだみたいな議論が起きることが怖い」と注意を促す。「世界で起きていることを一人一人が知り、危機を乗り越える対策を私たち自身で考えることが大切だと改めて感じます」と武田真一キャスターがまとめた。コロナを理由に民主主義や人々の情報を知る権利まで封じ込める独裁国家なんか、誰が望むものか。

あっちゃん

NHKクローズアップ現代+(2020年12 月10日放送「ルポ・武漢 パンデミック震源地の光と影」)
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