「クローズアップ現代+」レギュラーの栗原望アナはNHKラジオ第1の「みんなでひきこもりラジオ」のパーソナリティーも担当していて、番組にはこれまで引きこもり当事者から7500を超えるツイッターの書き込みが寄せられているという。5月(2020年)からこれまで4回放送している。
栗原は「ラジオですので、顔も名前もわかりません。この場所(番組)がラジオの前のあなたの居場所になったらいいなという思いで始めました」と番組で語りかけた。
すると、「着ている服は通販で買っている。最近、体調がよくなくて死にたい。消えたい」「親に怠け者、落伍者扱いされ、疎遠になった」というような声が届き、なかには「直接会って声を聞いてほしい」という人もいた。そこで、「出張ラジオカー」を仕立てて、全国のリスナーに会いに出かけ、その様子を「クローズアップ現代+」で特集した。
「普通という言葉が怖い」
大阪のゆみさん(25歳)は、結局、栗原と会う踏ん切りがつかないということで、近くまで行って、電話で話を聞いた。「妹と弟がいて、学生したり仕事したりしてるんですが、自分だけがちゃんとした仕事も勉強もしているわけでなく、いかにもはれ物の扱いをされてるなと感じることはありますね。普通って何なのか。普通っていう言葉って怖いなって思います」と話した。
秋田のよざくらさん(43歳)は就職氷河期世代で、ハローワークに通い、面接を繰り返しても就職できなかった。「父親から『お前が悪いんだ』『なんでこんなことができないんだ』と言われ続けて、自分なんか生きていてもしょうがないのかとか思ったり......。今からでも自分を認めて欲しいという気持ちと、早くいなくなって欲しいという気持ちと、半々ですね」と語った。
山梨の藤原弘章さん(37歳)は10年前、持病の治療薬の副作用がきっかけだった。「外に出て体を動かしたいから、親に1足靴を買ってくれと約束したのに、両親はすっかり忘れてしまったんです」
栗原「小さな約束を破られてしまう絶望。ささいなズレが、こじれる決定的な要素の一つになるんじゃないでしょうか」
引きこもり問題を長年取材している石井光太さん(作家)は、「普通という言葉が怖い」という大阪のゆみさんの話について触れた。「たまたま、うまく学歴があって、就職できて、ある程度仕事ができて、親に認めてもらったという人が、自分の居場所を確保できてるんですね。そうでない人もたくさんいるんですよ」
追い込んだと悩む親も
一方、大阪の日花睦子さん(65歳)や東京の中川さん(仮名=60歳)は、子どもに強い言葉であたり、引きこもりに追い込んでしまったことに苦しんでいた。
長谷川俊雄さん(社会福祉士)「身近な環境を緩やかな方向へ変えてみる。親子なのだから分かり合おう、理解し合おうと強迫的に考えない方がいいと思います。親子だから分かり合えるというのは本当だろうかと、大きな問題提起をしたいですね」
引きこもりの原因に、親の期待しすぎや人生観の押し付けが大きく関係していることが、あらためて浮き彫りになった特集だった。
※NHKクローズアップ現代+(2020年12月9日放送「"こもりびと"の声をあなたに~親と子をつなぐ~」)