新聞も読まない若者たちは善悪の区別がつかない
そこで相手がする話ぶりは終始ていねいで、まるで普通のアルバイトに誘うスタイルだ。取材スタッフのNHK名古屋・林雄大さんがバイト探しを装って連絡すると、最初の接触から4時間余りで翌日の「仕事」が伝えられ、詐欺被害者とのやり取りを記したマニュアル「受け子台本」まで送られてきた。「スピード感、手軽さが警戒を解いている」と林さんが感心したほどだ。
若者が情報をSNSだけでとることも問題だ。相手の顔を見なくても信用してしまう傾向があり、相手は考える間も与えずに話を進める。さらに、「若者はニュースサイトを見ないので、これで逮捕されるのだという情報が頭に入らない」とITジャーナリストの高橋暁子さんは指摘する。新聞を読まない、テレビニュースを見ない。これでは社会の仕組みもわからず、善悪の区別も怪しい人間ができてしまう。
闇バイトに使われるツールがある。ロシアで開発された通信アプリ「テレグラム」だ。送ったメッセージが、時間を設定しておけば自動で消える。復元できず、サーバーにも残らない。岡山県にある少年院。闇バイトを経験したという少年たちはこれで指示役とやり取りしていた。「すべてテレグラムで詐欺や強盗に入る家の住所などの指示を受けた」「警察もテレグラムは知っているけど、お手上げの感じがした」と、少年たちはリスクを感じずに犯罪に加担したという。
指示役をやるT(36)に、テレグラムを使う条件で話を聞くことができた。「SNSが一番手っ取り早い。全国的に使えるし、身バレ(身元がばれる)の心配もない」という。ピラミッド組織ができていて、トップは半グレや暴力団。下に指示役がいて人を集め、一番下が募集に応じた実行役の受け子や出し子。Tは月収200万円だそうで「指示役が捕まった話は聞いたことがない」と言い切った。
いったん組織にとらわれると、抜けるのは難しい。詐欺容疑で逮捕された少年(19)は辞めたいと告げたが、「勝手に連絡を絶ったら家まで行く」と脅された。運転免許証の写真を渡してあるので、ばらまかれる恐怖もある。誘い込まれた若者が他の若者を集めると昇給する仕掛けもある。実行役は逮捕のリスクが少ない指示役に回ることをめざし、組織は増殖を続ける。
高橋さんは「周囲の大人に相談するか、信頼できるニュースサイトや検索サービスで調べ、先に行かないことが重要です」と注意を促す。それだけで巧妙な犯罪組織から若者を守り切れるか、SNS自体の効果的規制までも考えるべき段階にとっくにきている。犯罪の入り口が普通の若者のすぐそばにある」(林さん)実態は深刻すぎる。
文・あっちゃん
※NHKクローズアップ現代+(2020年11月26日放送「あなたを狙う闇バイト」)