今回は、「プロデューサーと演出家」というテーマをもう少し掘り下げてみましょう。
プロデューサーとは、以前このコラムで申し上げたように、大まかに言えば、企画を決め、予算を確保し、スケジュールを決め、キャステイングをし、コンプライアンスを遵守し、PRのことを考える人のことです。
テレビの場合は、普通は映像を撮って編集する(ナマ放送の場合は、編集はありません)人をディレクター、大きな番組の場合は総合演出といいますが、単なるディレクターよりも上の人を「演出家」と、私は呼びます。
私がプロデューサーだったときに付き合った人たちの中で、「演出家」と呼べる人が2人います。
1人は制作会社ハウフルスの菅原正豊、もう1人は日本テレビの五味一男(現在は日テレAX-ON)です。この2人は共に優れた演出家なのですが、"芸風"が全く違います。
菅原が手掛けた主な番組は、「秘密のケンミンSHOW」「どっちの料理ショー」「チューボーですよ!」「出没!アド街ック天国」「タモリ倶楽部」です。彼の"芸風"は「自分が面白いと思うことをやらなくてどうする」です。
五味が手掛けた主な番組は「エンタの神様」「クイズ世界はSHOW byショーバイ!!」「マジカル頭脳パワー!!」「投稿!特ホウ王国」「速報!歌の大辞テン」です。五味の"芸風"は「自分が面白いと思う前に、他のより多くの視聴者を引き付けるものは何かを考えることが大事だ」です。
多くの視聴者を獲得できる面白さは演出家の腕次第
この2人の違いを考えることは、テレビの本質を考える上で、重要なことだと思います。私が考えるに、2人の間には"重なっている"部分があると思うのです。菅原が言う「自分が面白いと思う」ということには、すこし"尖った"一般性があります。番組をつくる能力のない人が「自分が面白いと思う」ことをやったら、それはだれも観ないでしょう。
五味の言う「より多くの視聴者を引きつけること」には、はっきりとした"主義"(ポリシー)があるのです。例えば「マジカル頭脳パワー!!」では、徹底的に"ゲームの追求"をしました。単にデータだけを採用して、今の世の中に人気があることをやっても、ダメなのです。
私が日本テレビのプロデューサーだったとき、この2人の優れた演出家と付き合えたことを、本当に幸せに思います。