アメリカ大統領選挙は民主党のジョー・バイデン前副大統領(77歳)がほぼ当確となったが、この選挙で世界が驚いたのは、アメリカ社会の分断状況の深刻さだ。候補者同士の対決に引っ張られるように、双方の支持者が対立し、暴力の衝突、親子の断絶にまでエスカレートした。しかし、これは単にバイデン派VSトランプ派ということではなく、経済格差、人種差別、宗教などを背景とした根深いものだ。
人種差別撤廃運動に参加してきたミシガン州デトロイトのジョーダン・ウェーバーさん(26歳)は、「この国の分断は、私が生きている間に解決できるとは思いませんが、いま始めるしかありません」と話す。ウェーバーさんは「少しは改善されるかもしれない」とバイデン氏を支持した。
200年ぶりに連邦議会で決選投票に持ち込まれるのか?
NHKアメリカ総局の河野憲治総局長は「およそ200年ぶりに連邦議会で決選投票に持ち込まれるようなことになれば、アメリカは海図のないまま漂流する状況になるかもしれません。双方の支持者による抗議デモが激しくなって、緊張が高まり、分断の傷口を一層広げることになるでしょう」と報告した。
武田真一キャスターは「どうしたらこの分断を解決することができるのでしょうか」と、ロバート・キャンベル氏(国文学研究資料館館長)に聞く。キャンベル氏はペンシルベニアに実家があり、3週間前に郵便投票を済ませたという。「(分断解消のカギは)根拠を共有できるかということです。いまは党派のレンズを通してしか現実をとらえることができない状況ですが、(アメリカ社会のさまざまな矛盾や課題など)起きていることは1つなのですから、一緒にどういうふうに解決できるかという議論をする土俵作りが必要です。インターネットやメディアに期待されます」
トランプ氏を救世主とみる人々の声に耳を傾けよう
現代アメリカ論が専門の慶応義塾大の渡辺靖教授はこう見る。「前回選挙の投票率は55%で、(トランプ陣営は)投票しなかった45%の人の中の経済的、社会的に保守的な人を掘り起こしてきたわけです。そうした忘れられた人々、取り残された人々には、トランプ大統領(74歳)は救世主なのです。リベラル派の人たちも耳を傾けてほしいですね」
武装威嚇などは問題外だが、自分の考えをここまで堂々と主張できるというのは、アメリカの健全性ともいえるのではないか。
※NHKクローズアップ現代+(2020年11月4日放送「米大統領選挙"異例"の投票日~分断社会の行く先は~」)