高品質で世界を魅了してきた日本の農産物が、世界の新たな潮流に対応を求められている。一つは農薬の規制強化だ。EUに習って基準を引き上げる国が続出し、日本の基準を満たしても輸出できない国や地域が増えてきた。タイは6月(2020年)、来年から一部の農薬を使用禁止にすると発表した。日本で一般的に使われる農薬だが、「不検出」が条件で「引っかかると輸出できない」(東京都大田区の高級フルーツ・野菜輸出会社)という。
20年前から輸出に取り組んできた青森県のリンゴ農家、片山寿伸さんは「昔から当たり前のように使ってきたものがちょっとでもダメというのでビックリしました」「日本は、降水量が欧米の倍、日照量は半分だから病害虫が出やすい。べつの農薬にかえるにはコストと手間がかかる」と深刻な表情だ。
日本でよく使う農薬が米国で「がんを発症」と大型訴訟に
この殺虫剤を禁止するのは、去年までの5カ国が今年は33カ国。タイはさらに除草剤の一部も禁止する方針で、こちらは禁止が41カ国に及ぶ。先鞭をつけたのはEUだ。2000年代から健康や環境への市民意識が高まり、従来の国際基準よりも規制を強めてきた。これに途上国が追従して新しい潮流ができ、日本と世界のギャップが広がった。今年(2020年)3月、農水省が発表した調査報告書では、主要輸出先17カ国・地域で、コメやイチゴ、ミカン、メロンなど13品目の輸出に支障が出る恐れのあることがわかった。
農薬の規制については、米国でいま注目の裁判が進行中だ。農薬大手モンサント社の除草剤で、日本でも使う「ラウンドアップ」が原因でがんを発症したと、10万人が同社を訴えた。原告の弁護士事務所はモンサント社内の2000万ページ以上の内部文書を分析して発がん性が事前にわかっていたはずだと主張する。モンサント社は「文書は意図的に選び出されたもので、除草剤は規制機関により安全と結論づけられている」と反論するが、3件の裁判で陪審員が賠償を命じる評決を出した。規制厳格化の潮流は世界に広がりつつある。
日本総合研究所の三輪泰史さんは「高温多湿で病害虫が出やすく、農薬使用を基本にしてきた栽培態勢を、日本の基準と好みでなく、相手国の基準と好みに合った作物体系に変えないといけない」と、どの作物をどの国に出すかの絞り込みを薦める。
元農林水産官僚の鈴木宣弘・東大大学院教授は「農産物輸出では日本は後進国。消費者の声に乗って農薬規制という非関税障壁を設けたEUや国家戦略で輸出する米国を念頭に置かなければ」と語る。