新型コロナによる不況で困窮が進み、体調不良や持病が悪化しても、受診できなかったり、我慢したりする人が増えている。メディカル・プアだ。武田真一キャスターは「その実態と対策を掘り下げます」と取り上げた。
神奈川県に住む田中雅美さん(仮名・40代)は、6月(2020年)に脳の血管に病気が見つかった。手の震えが止まらなくなったりするが、医療費を出すのは難しい。これまでは、パートの田中さんと派遣社員の夫との共働きで月30万円の収入があったが、田中さんが働けなくなり、夫は新型コロナで仕事が減ったため、収入が月に6万円弱になった。家賃の7万円も払えない。医師からは入院をすすめられたが、自己負担24万円ではとても無理だ。「早く治して、早く働きたいが、治療費のめどが立たない」と嘆く。
喘息が苦しくて眠れないのに「無保険」だから受診できない
静岡県浜松市の高橋和子さん(仮名・52歳)は喘息があるが、1年以上受診していない。「階段を上がるとすぐ息が切れて、苦しくて、苦しくて、寝ることもできません。市販の薬でごまかすことを繰り返しています」という。とうとう我慢できず、近くの診療所で見てもらうと、医師は症状の悪さに驚いた。「紹介状を書きますから、大きな病院に行った方がいいですよ」と言われたが、いまの薬で我慢したいという。高橋さんの収入は月10万円前後で、健康保険料が払えないので無保険状態なのだ。
全国日本民主医療機関連絡会の山本淑子事務局次長は、メディカル・プアの実情をこう話す。「全国の医療法人などを調査したところ、医療費が払えないという事例が、この半年(2月半ば~8月)で727件ありました。40~50代で一人暮らしが圧倒的に多いですね。ただ、これは医療機関まで相談がつながった事例だけで、氷山の一角です」
支援策はないのか。花園大の吉永純教授はこう説明する。「生活保護という手段がありますが、ハードルが非常に高いのです。1つは預金を認めていないこと。生活保護を受けるには丸裸にならないといけないのです。2つ目は自動車をもっていること。でも、地方では足になっていますからね。3つ目は、これは誤解なのですが、住む家があるとだめと思われているところがあります。そんなことはありません」
生活保護という手段があるが、ハードルが非常に高い
キャスターの合原明子アナは「メディカル・プアに陥った人のためのセイフティーネットに、無料低額診療があります。患者が一定の条件を満たせば受けられます。どういう制度でしょうか」と紹介した。医療機関によって異なるが、おおむね生活保護の1・2倍以下の収入ならば、受診料が無料になるのだ。
山田和子さん(82歳)は餃子店のパートと夫婦の年金で月15万円の収入だが、夫は要介護3で月に2回のデイサービスが必要だ。本人も高血圧と喘息を患っている。預金が少しあるので生活保護の対象にならなかったが、無料低額診療を適用されて負担はゼロだ。「感謝しきれません」と話す。
ただ、この制度を実施している医療機関は少ない。吉永教授は「まだ700程度で、全国の医療機関の0・4%にしかすぎません。制度自体もあまり知られていません」と残念がる。GoToトラベルだ、GoTOイートだと国はカネをばらまくが、医療分野をなによりも優先すべきではないのか。
※NHKクローズアップ現代+(2020年10月21日放送「病院、我慢します」~コロナ禍で増える"メディカル・プア"~)