原爆材料の大量保有に米政府がストップをかけてきた
そこから数年の間に東電内で問題提起した社外取締役は退任したが、その後も総事業費の見直しは行われていない。原子力委員会の元委員長代理、鈴木達治郎・長崎大教授は「核燃料サイクルの合理性や経済性に疑問があがったのは大事なこと。もう一度、選択肢について議論する機会だと思う」と指摘する。
日本原燃が今年(2020年)8月にも安全対策費に7000憶円を追加し急ピッチで建設を進める再処理工場は、フル稼働すれば年間800トンの核燃料を再処理できる。そこで生み出されるプルトニウムは7トン、これは原爆約800発に相当する。これを原料に作るMOX燃料は全国16から18基の原発で消費する予定だったが、福島第一原発事故後に規制基準が厳格化されたため使えるのは4基だけ。大量のプルトニウムを消費しきれない状況が出てきた。
一方、米国政府が強い警戒心を抱き始めた。原爆材料にもできるプルトニウムの大量保有を認めれば他の国も「自分たちも」と言い出しかねないことを懸念したためだ。それを受けて、日本政府は2018年、稼働可能な原発で使える量しか再処理しないことを決めた。重要な政策変更だが、国内議論よりも米国からの問題提起に動かされる体質をはしなくも露呈した。こうしてサイクル事業のフル稼働は、米国からストップをかけられた形となった。
龍谷大学の大島堅一教授が再処理事業費の内訳を分析すると、建設費や人件費など大きくは減らせない項目が90%近くに上るという。これで稼働率が下がれば「再処理事業は非常に高くつく。合理的とは言えない。このまま進んでいいのか考えた方がいい」と大島教授は指摘する。
使用済み核燃料の処理には、地中深く埋める直接処分の方法もあるが、議論もまだ十分されていない。1956年に構想がスタートした核燃料サイクル事業は、半世紀を経て曲がり角に来た。それでもなお推進するというのならメリットとデメリット、税金や電力料金の国民負担までもふくめた情報公開と国民的議論が必要だろう。
※NHKクローズアップ現代+(2020年10月15日放送「調査報告 核燃料サイクル」)