菅義偉内閣が目指すものがわかった。「恐怖政治」「警察国家」だ。日本学術会議6人の任命拒否に続き、中曽根元首相の合同葬儀で国立大学や都道府県教委に弔旗の掲揚と葬儀中の黙祷を求めた。時代錯誤も甚だしい。中曽根の「品位」さえ傷つけることになる

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   菅義偉内閣が目指しているものが見えつつある。ひと言でいえば「恐怖政治」「警察国家」である。日本学術会議6人の任命拒否問題に続き、中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬儀について、文部科学省が国立大学や都道府県教育委員会などに「各府省で弔旗を掲揚し、葬儀中に黙祷すること」を求める通知を出した。

   さらに葬儀には1億9000万円の巨費が投じられるというが、コロナ対策に充てられた予備費から支出するという。中曽根元総理が退陣したのは30年以上前である。自民党議員たちが悼むのはわかるが、時代錯誤も甚だしい要請は、中曽根の「品位」を傷つけることになるのではないか。

  • 菅義偉首相
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産経・フジ・新潮ら「親菅」メディアは学術会議の「左翼的」言動が気に障るらしい。特に中国の「千人計画」との関係が...

   日本学術会議問題は、菅が「会議側が作成した105人の推薦リストは見ていない」と表明したことで、さらに混迷を深め、メディアも反菅と親菅とに分断されている。親菅は産経新聞、フジテレビ、週刊誌では新潮だが、彼らは学術会議の"左翼的"言動が気に障るらしい。中でも、今週の新潮が巻頭で大特集を組んでいるように、学術会議は国内では軍事研究に反対の立場なのに、中国の「千人計画」に協力しているのはおかしい、要は「国益に反している」という批判が多いようだ。

   この計画に参加すると多額の研究費と給与をもらえるが、新潮によると、中国の軍事や経済に活用することを求められるというのである。アメリカではノーベル賞候補にもあがるハーバード大学の化学生物学部長が、中国政府から150万ドルの研究資金と、毎月5万ドルの給与を得ていながら、アメリカ当局への報告義務を怠り、虚偽の説明をしていたという容疑で、今年1月に逮捕されたそうだ。

   ポンペオ国務長官は、アメリカの知的財産を奪っていると、ヒューストンの中国総領事館を閉鎖し、中国政府も四川省のアメリカ総領事館の閉鎖を要求するなど、泥仕合に発展しているという。回りくどいが、要は、日本人研究者も何人かこの計画に参加しているというのである。新潮は取材を重ね、日本人研究者を特定し、取材の可否を尋ねると14人が回答してくれて、そのうち11人が応じてくれたという。

   原子炉を安全に運転するシミュレーションの専門家、吉川榮和京都大学名誉教授は、20名ほどの大学院生を指導し、研究費や月給はよかったと答えている。現在も北京航空航天大学の教授として、専門のソフトマター物理学を教えている土井正男東大名誉教授も、潤沢な研究費で自由に研究を行っていると話し、研究が中国の軍事に悪用される懸念はという質問に、「よもや日本にそんな技術がありますかね?」と聞き返している。

   この中で、学術会議の会員でマイクロナノロボットの権威である名城大学の福田敏男教授は断固無回答だったと書いている。福田教授のことは、先週の櫻井よしこも連載の中で触れ、「福田氏の研究が中国の軍事につながる可能性は否定できない」と書いている。学術会議出身で中国の北京理工大学の専任になったのはおかしいのではないかと言いたいのだろうが、福田教授の略歴を見ると、2018年にアメリカ人以外から2人目、アジア人として初のIEEE(米国電気電子学会)会長に選任されている。中国と怪しい関係にある人間を会長に選ぶはずはないと考えるのが真っ当なはずである。

習近平国家主席
習近平国家主席

学術会議人事を取りまとめた杉田和博官房副長官は、任命にあたり思想信条の身体検査をしていたようだ。まるで戦前の公安警察だ

   文春によれば、菅は官房長官時代から学術会議の在り方に疑問を抱いていて、2018年9月の補充人事に難色を示したそうだ。それが今回も拒否された中にいた宇野重規東大教授で、2014年の安全保障関連法案などに反対する会などに名を連ね、官邸の心証が悪化していたという。

   今回の学術会議の人事を取りまとめていたのが、公安・警備部門が長い警察官僚出身の杉田和博官房副長官だったため、「任命にあたり、思想信条的な"身体検査"をしていたようです」(官邸関係者)。まるで戦前の公安警察である。

   こうした警察国家を目論む輩の下に、テレビに出てフェイク情報を垂れ流す"トンデモ"ジャーナリストたちが、菅の周りにへばり付いているのである。典型はフジテレビの平井文夫上席解説委員なる人物だ。フジの『バイキングMORE』に出て、「この(学術会議の)人たち、6年ここで働いたら、そのあと(日本)学士院ってところに行って、年間250万円の年金もらえるんですよ、死ぬまで。みなさんの税金から、だいたい。そういうルールになっている」と発言したのだ。

   だが、この平井のいっていることはほとんどがウソだったのである。学術会議の会員全てが日本学士院の会員になれるわけではなく、現在、130人のうち学術会議出身者は30数人だそうだ。この悪質なフェイクを、フジの上席解説委員がテレビという公器を使って垂れ流したのである。フジは即刻この人間を首にするべきだ。

   張本人である菅首相は、10月26日から始まる臨時国会で追及されるのを恐れ、帝国ホテルの部屋に秘書官たちと籠って、答弁のお勉強をしているそうだ。今回の人事介入には、各方面から批判があるが、どれも私にはピンと来なかった。学問の自由がそれほど大事なら、国を訴えて、法廷で堂々と違憲性を争えばいい。

安倍首相の会見中に倒れた杉田和博官房副長官(2012年撮影)
安倍首相の会見中に倒れた杉田和博官房副長官(2012年撮影)

私には、サン毎の「これはレッドパージの再来だ」という保阪正康の見方が一番腑に落ちた。保坂は第2、第3があると見る

   その中では、サンデー毎日の「これはレッドパージの再来だ」という保阪正康の見方が一番腑に落ちた。朝鮮戦争に前後して、ときの最高権力者であったマッカーサーが、共産党員とその同調者を公職から追い払えという指令を出した。様々な職から追われた者は1万人以上にも及び、その中には、共産党員でない者も多く含まれていた。

   保阪は、今回を菅の「アカデミックパージ」第1波として、公然と「反政府的人物」をレッドに見立てて、第2、第3があると見る。政府が気に入らない人物を追放する時には一定の法則があるという。ターゲットを決めて、その人物を追放するように扇動する学者、研究者がいる。それに呼応する右翼勢力が加わり、議会の国家主義的議員が口汚く罵り出す。保阪は、「今、この国の政治状況はそういう段階だとの自覚が必要なのである」と結ぶ。

   終戦直後、初めてレッドパージをしたのは読売新聞であった。正力松太郎社主らの戦争責任を求める声が高まり、正力らは総退陣する。だが、共産党が従業員組合の勢力を拡大していくとGHQが介入してきたのだ。読売争議といわれ、組合側の大敗北に終わる。私の父親は戦前から読売新聞にいて、正力、務台などと一緒に働いたことを自慢にしていた。その父親の唯一の誇りは、「俺たちがアカを追い出してやった」というものだった。

   読売新聞の右傾化の原点はここにあると、私は思っている。今さらだが、読売争議についての文献を読み始めている。読売は早々とレッドパージに動き、それから5年ぐらい経ってGHQ主導で広範囲なパージが行われ、70年後に、安倍や菅によって再びパージが始まる。コロナも相俟って暗い冬になりそうだ。

保坂正康氏
保坂正康氏

二階俊博は和歌山の地元にIRを見越した「錬金術」をやっているようだが、いくら剛腕でももうカジノ建設は無理ではないか

   文春のトップは、二階俊博幹事長の地元、和歌山県の「和通」という社会福祉事業を営む小企業が、二階が進めるIRを見越して、和歌山マリーナシティというテーマパークのすぐそばに、約3000坪もの広大な山林を所有しているというものである。ここは二階の40年来の後援企業で、政治献金もしている。

   この土地は市街化調整区域であるため、今は老人ホームなどしか建てられないが、この一帯にカジノ建設となれば、二束三文の土地がいくらに跳ね上がるのか。文春は、田中角栄の金脈追及の端緒になった信濃川河川敷問題と相通じるところがあるというが、肝心のIR事業のほうが遅れに遅れている。観光庁は誘致を希望する自治体の受付を、当初は来年(2021年)1月から7月としていたが、9カ月延期することを発表している。

   さらに、参入を予定していた外国のカジノ企業の撤退も相次いでいる。コロナ不況で、カジノどころではないという空気は広がっており、二階がどんなに剛腕でも、和歌山へ持ってくるのは至難だと思う。

二階俊博幹事長
二階俊博幹事長

瀬戸大也が不倫で失ったものは大きかった。スポーツ界は大坂なおみを講師に招き、社会への目の向け方を話してもらうべきだ

   さて、瀬戸大也が不倫で失ったものは、彼が考えていた以上に大きかったと思う。味の素やANAのCM契約解除は想定内だっただろうが、日本水連の「年内活動停止」というのは想定外だったのではないか。五輪内定というのはかろうじて残ったが、その東京オリンピックも開催されるかどうかは不透明だ。

   新潮でスポーツジャーナリストの谷口源太郎が、「瀬戸選手に必要なのは、競技以外の部分で人生を見つめなおし、成長することだと思います」と言っている。だが、水泳以外の世界を知らないで育ってきた26の若者が、見つめなおせ、成長しろといわれても、どうしていいのかわからないだろう。

   スポーツ界は、テニスの大坂なおみを講師に招き、どのようにして社会に目を向け、堂々と「おかしい」と主張できる人間になっていったのかを、選手たちに話してもらえばいいのではないか。加えれば、スポーツ界には真っ当なジャーナリズムがないことも、選手たちに社会人としての自覚が生まれない大きな要因ではないのか。

大坂なおみ選手
大坂なおみ選手

新潮によると、三浦春馬の死に「他殺説」が流れているという。デマが流れるのは事務所がその後、情報を出さないからだ

   ところで、新潮によると、三浦春馬の死に「他殺説」が流れているというのだ。なぜそういう風説が生まれるのか。新潮で大手芸能事務所幹部が、「『三浦さんと親交のあった新宿二丁目の飲食店関係者の衣服が、三浦さんの部屋のクローゼットに収納されていた。その男が、仲違いが原因で殺害したのではないか』と。しかも、『警視庁が、その人物を別件で逮捕し、新宿署に拘留して取り調べを続けている』というのです」

   さらに、三浦春馬の自死に疑問を抱くファンたちが、警察による再捜査を求めて声を上げ、既に9000を超える署名が集まっているそうである。こうした根もない噂が出て来る背景には、所属していた事務所のアミューズが、春馬とファンのお別れ会を含めて、その後情報を出さないことにあるようだ。

   それに、宗教学者の島田裕巳のいうように、三浦春馬のドラマや映画が新たに放映されることで、「余計に生死の境があやふやになった。(中略)ファンも死を納得して受け入れられない」(島田)という状況ができてしまったのかもしれない。死もけじめが必要だということか。(文中敬称略)

三浦春馬さん(2008年)
三浦春馬さん(2008年)

元木 昌彦(もとき・まさひこ)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任。講談社を定年後に市民メディア『オーマイニュース』編集長。現在は『インターネット報道協会』代表理事。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)『現代の“見えざる手”』(人間の科学社新社)などがある。

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