今年7月(2020年)、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者・林優里さん(当時51歳)から依頼されて、薬物を投与して殺害した医師2人が逮捕された。林さんはネットで「動かない。食べられない。話せないこの身体。屈辱的でみじめな毎日。死ぬ権利を認めてもらいたい」と語っていた。
武田真一キャスターは「ALSは意識がはっきりしたまま、筋肉を動かす機能が失われていく難病で、有効な治療法は見つかっていません。国内の当事者はおよそ1万人。事件を受け、戸惑いが広がっています」と取り上げた。
「事件は衝撃でした。悲しい気持ちと、彼女の願いがかなってよかったという気持ちが入り混じっています」
長崎に住む平坂貢さん(48歳)は首と指の動きだけでパソコンを操作し、林さんとメールのやり取りしていた。「(事件は)衝撃でした。悲しい気持ちと、彼女の願いがかなってよかったという気持ちが入り混じっています」
平坂さんは韓国の釜山大学で数学を教えていた4年前、44歳の時につまずくことが多くなり、声が出しづらくなった。休職して実家に戻り、いまは妻と子供と暮らしている。「昔は白血病が不治の病でしたが、ALSもいつかそうなると思いますが、(自分に)間に合うかどうかわかりません」と語る。趣味の川柳で、「安楽死 気持ちはわかる 辛いもん」と詠んだ。
日本ALS協会前会長の岡部宏生さん(62歳)は、「生きたい、死にたい、を繰り返しているんです」という。人工呼吸器を付けずに亡くなる多くの当事者を見送ってきた。ALSは多くが発症から2~5年で呼吸するための筋肉が動かなくなり、人工呼吸器が必要になる。付けるのは3割、7割は介護や経済的理由で付けずに亡くなる。
「まさに生きるのか、諦めるのかという決断を、自分でしなければならないのがALSの過酷なところです」
岡部さんは「まさに生きるのか、諦めるのかという決断です。それを自分でしなければならないのが、ALSの過酷なところです」と語る。
患者や家族への支援はどうなっているのだろう。武田は「7割の当事者が人工呼吸器を付けないということですが、どんな思いを抱いていらっしゃるのでしょうか」と、取材したNHK京都放送局の小山志央里記者に聞く。「(家族に)迷惑をかけるとか、全身が動かないのにどうやって暮らしていけばいいのか、介護してくれる人がいないなどから、人工呼吸器を付けないようです」と報告した。
美容師の宮川秀一さんは去年(2019年)夏、45歳の時にALSと判明、進行が早く、現在、目以外はほとんど動かせない。人工呼吸器を付けたが、24時間介護が必要となり、妻の明日香さんは睡眠時間1~2時間の日が続いた。「一緒に死んじゃってくれないかなと思う時もありました」と明日香さんは話す。
そんな時に紹介されたのが、重度訪問介護の利用だった。週6日24時間の介護をしてくれる制度だ。ALSの母親を10年間介護してきた在宅介護支援NPO法人「さくら会」理事の川口有美子も「遠慮することなく、こうした介護サービスを使ったほうがいいですね」という。
小山記者「重度訪問介護の制度で家族の負担を大きく減らすことができます。でも、地域格差があり、認知度も低く、なによりもヘルパーが不足していて、希望すれば利用できるという状況にありません」
政治や行政がやるべきことははっきりしている。急げ!
※NHKクローズアップ現代+(2020年10月14日放送「ALS 当事者たちの声」)