女性たちのファッションを長年リードしてきた「丸井グループ」は、大量生産・大量消費を前提に消費者の趣向を捕らえようとしてきた戦略を大きく転換しようとしている。そのキーワードが「持続可能性=サステナビリティ」だ。
青井浩社長は言う。「コロナをきっかけに、消費スタイルの変化が確実に起こる。大量生産・大量販売を前提としたビジネスは大きく変わらざるを得ない」。
コロナの感染拡大で2カ月以上も店を閉めざるをえなかった丸井は、小売り部門の売り上げが大きく落ち込み、池袋など2店舗を閉じることを、明らかにした。起死回生策として期待するのが、「サステナビリティ」を前面に打ち出した戦略だ。サステナビリティ部長の関崎陽子さんは、消費者の意識の変化がカギを握っていると分析する。
関崎さんが入社したころは大量生産・大量消費が社会を牽引したが、リーマンショックなどで2度の赤字転落を経験。目先の利益を追うだけでは生き残れないと痛感した同社は、2050年までの長期ビジョンを作成。地球温暖化対策やサステナビリティを重視する経営に転換した。すると、投資家から高い評価を受け、株価も上がった。青井社長はいう。「これから手がけるビジネスは、すべて社会課題の解決か、環境の保全か、人々の幸せにつながるもの。時間はかかるが、そうしたビジネスを大きく育てていく」。
丸井グループが目を付けたのは、再生可能エネルギーだ。新宿本館の電気を再エネ100%にしただけでなく、電力会社と提携して自ら再エネを売り出すことにした。現在の丸井の収益を支えているのは、小売りではなくカードなどの金融部門だ。「EPOS CARD」は若者向けカードの先駆けとして知られ、約700万人が利用している。カードの提携先の電力会社は耕作放棄地にパネルを設置して農業と両立させる。消費者はCO2の削減に貢献できるだけでなく、全国30以上の発電所から自分が応援したいところを選ぶことができる。そんなライフスタイルを提供しながら自社のカードも愛用してもらおうとの狙いだ。
消費者の関心高まり、女性誌も丸ごと一冊「サステナビリティ」特集
女性誌「FRAU」はこの夏、一冊丸ごとを「サステナビリティ」特集とした。関龍彦編集長は言う。「隅から隅までしっかり読みました、と言ってくださる方が多いですね」。「持続可能」への消費者の関心が高まっている。
長野市郊外で先月、薪を使った自然エネルギーの普及に取り組む体験イベントがあった。主催したNPO事務局長の吉田廣子さんは、以前から食とエネルギーの自給自足を目指してきた。太陽光発電所を作り毎年200万円を売り上げるほか、住民が持ち込む木を買い取り、薪にして販売している。地域が経済的に自立していたことが、コロナ禍のなかで強さを発揮した、と吉田さんは考えている。
企業約100社などでサステイナブルを担当する女性らが集まった「CSR48」は、オンラインで勉強会を開いている。世界ではコロナを機に、サステイナブルな復興を目指す動きが加速しているが、日本企業ではまだ主流とは見られず、目先の経済復興が優先されがちだという。この壁を突破するためにどうするか? 総監督の太田康子さんは、「私が重要だと思っているのは、ひとり一人の個の力を信じるということ。個人の意識を変革していくことを諦めずに地道にやっていけば必ず変われます」