今年(2020年)4月に亡くなった巨匠・大林宣彦監督(享年82)から「映画をつないで平和な世の中に」と託された映画監督がいる。岩井俊二さん・手塚眞さん・犬童一心さん・塚本晋也さん。全員がバブル期にデビュー。大林さんら戦争を知る世代と比べて、描くべきテーマがない「空白の世代」とも呼ばれてきた。
「映画は過去の歴史を変えることはできないかもしれないが、未来の歴史を変える力はある」「未来をつくる人間の可能性を私は信じきってみせる」。大林さんは4人の監督に遺言を残していた。新型コロナで苦境に立たされている映画界で4人の苦闘を追う。
ウイルスと戦う怪獣映画をリモートで作った岩井監督
岩井俊二監督(57)は内外で数々の賞を受けてきたが、新型コロナの影響で企画が中止に追い込まれた。岩井氏にとって、大林監督は「どう生きるかを問いかけてくれた」存在だった。岩井氏はリモートによる映画作りを模索した。脚本と監督を務めた、今夏の新作『8月で死んだ怪獣の12日の物語』は、通販サイトで購入した怪獣がウイルスの脅威に立ち向かう。「いま戦い続けるヒーローたちに感謝し、僕たち一人一人もヒーローです」と思っている。
手塚眞監督(59)は、父の漫画家・手塚治虫さんとはちがう表現方法で描くべきテーマに悩み続けてきた。監督14年目の1999年に公開した『白痴』は、坂口安吾の原作を大胆に解釈して、戦争を舞台に人間の本質を描こうとした。当時はファンタジー映画として受けとられるばかりだったが、励まし続けてくれたのが大林監督だ。
2年前にもらった手紙を今も大事にしている。そこには「映画は風化せぬジャーナリズムであり、過去をしたたかに記憶し、未来の夢を紡ぐ道具である」「手塚の映画が毅然としてここにある。僕は映画たちに未来の人間の運命を託したい」とあった。手塚氏は「迷ったときに引っ張り出して読んでいます」と話す。今は、コロナを乗り越えて生きる映画を、女性たちを主役につくりたいと思っている。「あえてコロナに向き合って解放されることができればなあ」