菅が師と仰ぐ竹中平蔵は国民1人1人に毎月7万円を配れという。その代わり年金や生活保護などの社会保障を廃止するのだ
こうして見ていくと、菅という人間、周囲の思惑に引きずられる操り人形のようだが、それをはっきり示すのが、菅が師と仰ぐ竹中平蔵人材派遣パソナ会長の存在だろう。文春も触れているが、竹中が提唱する「ベーシックインカム論」を徹底批判しているのはポストである。
竹中は、国民1人1人に月7万円を配れという。そのためには財源が年間100兆円はいるそうだが、竹中は「社会保障財源」を当てればいいという。現在、年金、医療、介護、失業保険、生活保護などの社会保障支給額は年間約120兆円(2019年度)。それを国民が支払う年金や健康保険などの保険料(約71.5兆円)と国庫負担(約34.1兆円)、地方税(約14.7兆円)、年金積立金の運用益などで賄っている。
その財源をベーシックインカムの支払いに回せば足りるというのである。「竹中氏は今年8月に刊行した著書『ポストコロナの「日本改造計画」』でこう書いている。
〈1人に毎月7万円給付する案は、年金や生活保護などの社会保障の廃止とバーターの話でもあります。国民全員に7万円を給付するなら、高齢者への年金や、生活保護者への費用をなくすことができます。それによって浮いた予算をこちらに回すのです〉
政府の仕事は国民のマイナンバーに紐付けた口座に毎月7万円を自動的に振り込むだけでいい。菅政権が進めるデジタル庁や縦割り行政廃止は、年金制度廃止の準備であることが浮かび上がってくる」(ポスト)
この乱暴なやり方を菅に吹き込み、深く考えない菅が推し進めるとしたら......。
「しかし、年間約104兆円(月7万円×1億2500万人)のベーシックインカムの財源確保には、年金保険料だけでは足りない。健康保険や介護保険、雇用保険まで含めた現行制度における『社会保険料』の収入と同等の収入源が必要になる。
つまりサラリーマンが給料から天引きされる『社会保険料』が、ほぼそのまま"ベーシックインカム税"に性格が変わる」(同)
そうなるとどうなるのか?
『ベーシックインカムを問いなおす―その現実と可能性』の共著者の1人で労働社会学者の今野晴貴がこう指摘する。
「竹中プランが日本で導入されれば、年金、医療、介護、生活保護などの社会保障給付は打ち切られることが想定されます。年金を老人ホームの毎月の入居費用支払いにあてている高齢者は、ベーシックインカムが実施されると費用を払えなくなって退去を迫られるケースもあり得る。健康保険や介護保険制度の共助の仕組みも成り立たなくなり、現役世代も高齢者も、病気や介護が必要になったときは全額自己負担。月額7万円の中から払ってくれということです」
先の100万円より目先の7万円である。人間の弱さを衝いて、後は自助だと切り捨てる。ポストがいうように、「国民のセーフティーネットを切り捨てることで、『増税なき財政再建』を実現しようという国家の陰謀である。国民はその対策を考えることが急務だ」。何より怖いのは、菅には「人を見る目がない」(文春)ことである。