「顔認証」が急速に普及している。カードや指紋に代わって本人確認の主流になりつつある。しかし、技術的にはまだバラツキがあり、警察が使ったシステムの技術や法的な不備で、誤認逮捕や反対運動も起きている。近未来は単に、便利なだけではないようだ。
NECは昨年、アメリカの研究所が行った「顔認証」の技術テストで、エラー率0.5%を達成して世界の1位になった。同社は今、次世代のデジタルオフィスの実証実験を行っているが、社員はマスクのまま玄関ゲートを通り、コピー機、ロッカー、自販機まで顔認証だ。
小山径アナが20年前の顔写真を登録して、試みたが、見事に認証された。歳をとっても変わらない、目から鼻の筋、顔の凹凸、筋肉の傾きなど、数カ所で本人しかない特徴を見分けるのだという。さらに、目の虹彩(これも一人ひとり違う)を利用したシステムも開発中で、エラー率はさらに低くなるという。
AIのディープラーニング技術で飛躍的進歩
顔認証技術は、銀行のATM、地下鉄の改札、空港の出入国審査などへの利用が期待され、東京五輪の選手・関係者の入場にも使われる予定。東京・新宿に店員のいない店舗もできた。向こう5年間で市場は2倍以上になるともいう。
順天堂大学病院(文京区)では、入院患者の顔の表情から、認知症の兆候を早期に捉えようとしている。歳をとると笑顔が少なくなるが、これを数値化する技術を開発した。100点満点で今何点と評価できる。医師は「数字は助けになる。将来はオンライン診療に使いたい」という。
顔認証は、ディープラーニングと呼ばれるAI技術の飛躍的進歩がもたらした。AIが大量のデータを読み込み、自律的に分析を行う技術だ。カメラが捉えた人を、事前に蓄積した膨大な数の顔写真と照合して、誰であるかを特定する。AIはまた、集めたデータを学習する。ここで様々な問題も起こる。
米のデトロイト警察が使ったシステムでは、誤認逮捕が出た。昨年7月、泥棒事件で防犯カメラに写っていた映像から、AIが割り出した人は別人だった。問題はエラー率で、NECが1位になった調査でも、システムによってエラー率は、10?100倍もの開きがあった。
レンセラー工科大(NY州)が行った精度の検証でも、男性よりも女性が、白人より黒人の精度が低かった。顔写真のデータに偏りがあるからだという。批判の声も高まっており、アマゾンでは今年に入って、警察への顔認証技術の提供を一時停止。IBMは技術の開発から撤退するといわれる。