自閉症スペクトラムのための24時間ケア施設<正義の声>を運営するブリュノ(ヴァンサン・カッセル)は他の施設では断られた重症な子どもでも断らないため、施設は常に満員状態だ。そして施設では、ブリュノの友人・マリク(レダ・カテブ)が運営する<寄港>で教育された若者たちが職員として働いている。若者たちは人種差別や家庭問題などで社会からドロップアウトした者たちだ。
こうして二人は社会からはじかれてしまった子供たちを「全員救う」ために支援し、採算度外視で活動をしてきた。しかしある日、無認可・赤字経営の<正義の声>に政府から監査が入ることになり、閉鎖の危機に陥る。
自分の時間やプライベートもないのに、なぜそこまでして...
ブリュノが施設の立ち上げから支援し続けてきた青年・ジョゼフは就職先が見つからず、電車や駅で毎日「非常ベル」のボタンを押してしまう。14歳のヴァランタンは、長年にわたり閉じこめられていたせいで心を閉ざし、すぐに自傷行為に走る。ほかにも暴力的な子供や、寝ない子供など、<正義の声>の利用者はどの子も〝問題児〟ばかり。おかげでブリュノは忙しすぎて、ずっと独身。婚活中だが相手を見つける暇がない。マリクは家庭はあるものの、自宅にはほとんど帰れない日々だ。
自分のプライベートはないも同然、かといって儲かっているわけでもない。では、なぜ彼らはそこまでして他人のために奔走するのか?
ジョゼフの母は「<正義の声>に出会わなければ親子で自殺しようと思った」と話し、ヴァランタンの担当医師も「3か月で退院しなければならない患者を無条件で受け入れてくれるのは、心と信念で働いているブリュノだけだ」と証言する。決して映画だから大仰に言っているわけではなく、フランスでも日本でもこれが現実の声であり、むしろもっと辛い、悲惨な事例がいまの社会にはたくさん存在するだろうことも容易に想像でき、胸が痛んだ。
若者たちのバックグラウンドの描写は、手薄感が否めない
とはいえ、こうした人々に向き合うブリュノとマリクは常に真剣ながらも、どこかほどよく力が抜けている。自閉症者の〝クセ〟や〝性格〟に振り回されても、向き合うことから目をそらさずにいれば、必ず光が見えてくる。しかも、健常者・障がい者も、マジョリティー・マイノリティーも関係なく、誰もがつい笑顔になってしまう明るく輝く未来が。彼らはそのことを幾度とない経験からすでに知っているのだ。ラストは感動とともに「なぜ他人のために?」の問いの答えを受け取ったような気持ちになれた。
ちなみに、登場人物の介助者と自閉症者の多くは役者ではなく本物。ヴァランタンを演じたマルコ・ロカテッリも弟が深刻な自閉症だったからオーディションに参加したという。それもあってか、自閉症者のシーンは非常に細かく描かれ、見応えがあった。
しかし一方で、<寄港>の若者たちのバックグラウンドについての描写は手薄だった感が否めない。上映時間の尺の問題もあったか。もう少し掘り下げてほしかった。というわけで本当は☆4つのところを一つ減らしました。
バード
おススメ度 ☆☆☆