<海外ドラマ「アンという名の少女」>(NHK総合)
名作『赤毛のアン』をドラマ化。身に降りかかる困難を明るさとユーモアで打ち破っていくアン。爽快で前向きな気持ちにさせてくれる。

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   新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかったとされ、人々の生活や経済活動も徐々に回復しているかのように見える。しかし、一方で企業の相次ぐ倒産や派遣・アルバイト切りなどにより何百万人もの人々が職を失い、明日をも知れぬ困窮を強いられている。

   そんな閉塞感が漂う中、13日にスタートしたこのドラマの放送は、実にタイムリーといえる。「『赤毛のアン』なんて女の子が観るものだろ?」などと、間違った先入観を持っていると損をする。アン・シャーリーという名のやせっぽちな少女の明るさとたくましさに励まされる大人も多いはずだ。

   何しろアンの閉塞感は半端じゃない。19世紀後半のカナダ東部ノバスコシア州に生まれ、わずか3カ月で両親を熱病で亡くしたアンは、まだ自分が子守りされる年齢にもかかわらず、他人の家で子守りをして生き延びた。孤児院に入る前の数年間はハモンド家で8人の子供の世話をしていた。ハモンド家や孤児院などで受けたひどい虐待がトラウマとなり、ことあるごとにフラッシュバックしてアンを苦しめる。また、アンという平凡な名前や赤毛にコンプレックスを持っている。

  • NHK番組ホームページより
    NHK番組ホームページより
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貧富の格差や性差別、幼児虐待、いじめ...世界にはびこる問題は古さを感じさせない

   そんなアンは13歳のとき、隣の州にあるプリンス・エドワード島で農業を営む年配の兄妹マシューとマリラのカスバート家の養女となった。生まれて初めての「わが家」を得て、アン・シャーリー・カスバートとして希望にあふれて地元の学校に通い始める。しかし、そこでも仲間はずれにされたり、意地悪な男子から「ニンジン」と呼ばれて三つ編みを引っ張られたりするといった陰湿ないじめに遭う。それでもアンは懸命に勉学に励み、長じては地元の学校の教師となる。

   原作の「Anne of Green Gables」(直訳すると「緑の切妻屋根の家のアン」)は、カナダの作家ルーシー・モード・モンゴメリが自らのプリンス・エドワード島での体験を交えながら執筆し、1908年にアメリカで発表した長編小説だ。

   その中で描かれているのは、貧富の格差や性差別、幼児虐待、いじめ、排他主義、人種差別、無知に起因する様々な偏見......と、今の日本や世界にもはびこる極めて今日的な問題だ。ある意味で、新型コロナよりも根深い問題と言える。100年以上の歳月を経た今も古さを感じさせないのが、名作の名作たる所以だ。

   脚本のモイラ・ウォリー=ベケットは、原作に忠実な上に「ドキュメンタリー並みのリアリズムを追求したかった」と言い、当時の衣装や風習など徹底した時代考証を行ったという。そのため、海外では「原作以上にリアリティーがある」と高く評価される一方で、「これまでの映画やドラマに比べて暗すぎる」と酷評されるなど、毀誉褒貶相半ばする評価を受けた。

   だが、そういったことは、本欄の読者に視聴をおススメする理由のほんの一部に過ぎない。

   おススメする最大の理由は、わが身に次々と降りかかる火の粉を持ち前の明るさとユーモアで振り払い、負けん気の強さといい意味での開き直りで閉塞状況を打ち破っていくアンの姿が、観る者を爽快で前向きな気持ちにしてくれるからだ。プリンス・エドワード島の厳しくも美しい大自然にも目を奪われる。

   日曜の夜のひととき、世界で一番有名な少女の成長を見守りつつ、珠玉の名作ドラマで癒やされよう。(毎週日曜よる11時~)

寒山

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